「コロナワクチン」接種の前に、あの医師が伝えておきたい7つの本音:世界を「数字」で回してみよう(66)番外編(10/11 ページ)
いよいよ始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種。コロナ禍において“一筋の光”でもあるワクチンですが、変異株の増加など心配なことも増えています。今回は、前回に続き、あの“轢断のシバタ先生”が、ワクチンそのものに対する考え方や変異株の正体、全数PCR検査の机上シミュレーションなど、読者に伝えておきたい7つの“本音”を語ります。
東京五輪についてひと言
恐らく、先進国については数か月後の段階で流行が一息つく可能性があると思います。
ワクチン接種の普及と、季節的な影響と、高実効再生産グルーブに属する人が(特に欧米で)それなりの割合で感染し終わっているような気がするからです。
季節の影響により、北半球の初夏は新型コロナが勢いを保ちにくい可能性があるというのは、多分正しいと思います(新型コロナの季節性についての検討は、こちらやこちらなど複数の報告があるようです)。
ただ、数カ月後というタイミングは、ちょうどワクチンの国際供給の不均衡がピークに達する時期と重なる可能性がある、と直感的に思っています。
今、2021年2月下旬の段階でEUの方が日本よりワクチン供給優先度が高い(ように見える)状態で、日本へのワクチン供給速度の見通しが国会答弁ではっきりしないくらいですから、途上国への供給見通しはさらに悲惨でしょう。
「COVAX」というワクチン支援国際事業体が組織されています。しかし、現状では、その出資者である先進国の国民が優先されていることは、ワクチン接種回数から見ても明らかです。
五輪は「人類の調和の取れた発展」を理念とするイベントだと聞いております。万が一にも「ワクチン接種で感染がピークアウトした先進国 VS 死亡超過が遺体処理能力を超えて腐乱死体があふれた発展途上国」という最悪な対立の中でオリンピック開会式が行われる事の無いようにしていただきたいものです。
特に、2021年7月23日の開催時まであと約4カ月、日本政府は死にものぐるいでワクチンを確保しにかかるでしょう。しかし、それは同時に、オリンピックのために途上国からワクチンを奪うという可能性を秘めています。
東京五輪が世界の歪みの象徴とならないために、世界規模でのワクチン供給体制の公正化が日本政府には強く求められていると思います。というか、大手製薬企業のワクチンの特許、もう無償提供しちゃっても良いんじゃないでしょうか。
以前のコラムで江端さんから「国際的緊急事態における特許権の開放に関する国際協定」について教えていただきました。
今、オリンピック直前の今、まさに、この時に、この協定の発動を検討しなければ、いつ適応されるのでしょう。この1年でCOVID-19による死亡と確認されているだけでも250万を超す人が世界で亡くなり、ワクチンの供給不均衡のせいで今後COVID-19の犠牲者の国家間格差が急速に拡大する瀬戸際にある今こそ、緊急事態と言うにふさわしい状態のように感じます。
個人的には、このままだと先進国優先のコロナ対策やワクチン格差に嫌気がさした発展途上国の人々にとって、オリンピックが巨悪の象徴、そしてSNS炎上の燃料にならないか心配です。
自分の大切な人がワクチン不足で死んでいく一方で、ワクチンの大量契約を結んだ国がオリンピックでお祭り騒ぎをしていたら、それは腹も立つでしょう。
逆に、オリンピック開催国の働きかけでワクチン特許が開放され、製薬会社による援助と技術供与とともに世界各国が自国現地でワクチンを生産できる体制が菅首相の国際的リーダーシップで整えられたなら、もしかしたら五輪開催が世界協調のシンボルとして再認識されるだけでなく製薬会社と菅首相(とワープスピード作戦のトランプ元大統領)のノーベル平和賞とかもアリかな、とか思っています。
もちろん、ワープスピード作戦で巨額を投じた米国との調整や、完全無償ではなく企業と発展途上国の双方がwin-winとなる契約内容になるように工夫が必要だとは思います。日本が何を目指して、どのように行動し、その結果として国際社会からどう評価されるのか、この夏に分かります。選挙が秋に控えていますので、楽しみに注目させていただきます。
ことしのオリンピック開催の是非についての直接的言及はスルーさせていただき、とにかく今後ワクチンとまだ見ぬ治療薬が世界に早期かつ均等に行き渡り、3年後のパリ五輪において「もはやCOVID-19はただの風邪になった」と宣言がされる未来が訪れることを期待したいと思います。
今度こそ最後(の予定)です
今度こそ、江端さんや皆さまにお伝えしようと思うネタは尽きたはずです。
毎度とりとめも無い話を最後まで読んでいただきありがとうございます。これまで書きすぎた内容も多かったと思います。反省です。逆に的中してしまった予測もありました。
残念なことに医療は一時的に崩壊のオーバーフローラインをふらふらと行き来し、重症化したコロナ患者の受け入れが遅れたり、通常医療が必要な患者が治療を待たずに死亡したりする案件がいくつもニュースで報道されました。
私の未来予測は1年前の「SARS-CoV-2は他のコロナウイルスと同様に10年かけて、ただの風邪になり日常生活に溶け込んでいくだろう」という主張から変わりありません。
しかし、ただの風邪になるまでにどれだけの人が死ぬのかは、どうやら個人の行動の積み重ね(行動変容の徹底とワクチン接種)によって確実に、そして劇的に変わるようです。
ところで、前回のレポート冒頭にご紹介した健診スタッフたちのワクチン接種希望調査の集計結果ですが、最終的に全員が自主的に接種を希望したそうです。
本稿が皆さまのワクチン接種に対する判断の一材料となれば幸いです。
シバタ
このコラムの中に収め切れなかった専門事項については、こちらの付録をご覧ください*)。
*)新型コロナ対策で、友人や会社や組織で論争になった時、確実に相手にトドメを刺す(論破する)ロジックと証拠と数値データが満載です。また、これからワクチン接種に出向かれる方は、付録Gを読んでおくと安心だと思います。また、付録Fには、私たちのワクチン接種が、発展途上国の人たちの命の犠牲の上になりたっているという現実が記載されています(江端)。
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