音声インタフェースは主流になるのか?:早くも市場の断片化も(2/2 ページ)
音声制御と音声インタフェースは、消費者向けエッジデバイスのほぼ全てのカテゴリーに容赦なく浸透し始めている。音声認識アルゴリズムとAIアクセラレーターハードウェアの両方の進化は、音声制御技術がスマートホーム向けデバイスなど電力とコストに制約されるアプリケーションでも(一部の単純なものさえ含め)利用できるようになっていることを意味する。
次世代ユーザーは、音声インタフェースを好んでいる?
新興企業SyntiantのCEO(最高経営責任者)を務めるKurt Busch氏は、米国EE Timesが2020年夏に行ったインタビューで、「次世代の技術ユーザーは、音声インタフェースを好んでいるようだ」と述べている。
Busch氏によると、同氏の一番下の子どもは、文字は読めても、書いたり単語を正しくつづったりすることはまだ難しいという年齢だが、スマートフォンの音声インタフェースを使って友達とメッセージをやりとりしているという。
「上の兄弟たちは、メールを書くことができるが、末っ子の世代の子供たちは、上の兄弟たちよりも2〜3年早くスマートフォンを使い始めている。そのうちに、末っ子たち以降の世代の子供にとっては、スマートフォンに話しかけることがデフォルトのインタフェースになるだろう」(Busch氏)
同氏は、「音声は、いわば“未来のタッチスクリーン”といえるかもしれない。(クラウドにはつながらず)デバイス内で処理され、高速応答性を備えた音声インタフェースは、まずはキーボードやマウス、さらに白物家電で採用されるようになる」と述べた。
Syntiantの専門的なAI(人工知能)アクセラレーターチップは、パワーバジェットが非常に低い家電製品の音声AIワークロードに対応可能だという。同社の半導体チップの累計出荷数は1000万個に達し、そのほとんどが携帯電話機に搭載され、常時オンのキーワード検出機能を実現している。同社の最新チップ「NDP120」は、「OK Google」のようなホットワードを認識できるため、Googleアシスタントを280μW未満の消費電力で起動させることが可能だ。
また同氏は、「将来的には、誰もが音声制御を使ってコネクティビティと技術へのアクセスを実現できるようになるだろう」との見解を示した。
Busch氏は、「音声は、技術の民主化を実現する重要な存在だといえる。世界では現在、1日当たり2米ドルで生活している人々が30億人もいる。こうした人々は恐らく、インターネットにアクセスできず、教育システムにも所属していないと考えられる。この場合のナチュラルインタフェースは、“音声”だ。音声が、既存技術との接触がない第三世界に技術をもたらすための手段になる。開発途上国では、これまでアクセス手段を持っていなかったであろうこれらの社会階層に対応していく上で、コスト面だけでなく使いやすさの面でも、ボイスファーストアプリケーションについて大きな関心が寄せられている」と述べている。
Knowles ElectronicsでIoT(モノのインターネット)部門担当シニアディレクターを務めるVikram Shirastava氏は、米国EE Timesのインタビューに応じ、「音声と同様に急激な成長を遂げている市場では、ハードウェアに沿うことができないだけでなく、極端な断片化が進む危険性がある」と述べる。
「市場の断片化は、例えば、使われている音声認識エンジンの種類などによって進んで行く。TV用向けSoC(System on Chip)と統合するのか、それとも電子レンジ内のシンプルなマイコンと統合するのかによっても、市場細分化されていくだろうし、OSや環境もそうした要素になり得る。万能のソリューションはなく、それぞれの分野で共通項を見つけ、それに応じて音声認識技術の統合を進める必要がある」(同氏)
Knowles Electronicsは最近、スマートスピーカーやスマートホームデバイスなどBluetoothで接続される機器向けに、音声認識の開発キットである「AISonic Bluetooth Standard Solution」を発表した。
Knowles Electronicsの音声処理用DSP「IA8201」を搭載した、Sugarの車載スマートフォンホルダー「iOttie Aivo Connect」。「Alexa」が内蔵されている 画像:Knowles Electronics
【翻訳:青山麻由子、田中留美、編集:EE Times Japan】
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