名古屋大、磁場中で体積変化する反強磁性体を発見:新たな発現機構に基づく磁歪現象
名古屋大学の研究グループは、磁場を加えると体積が大きく膨張する反強磁性体を発見した。チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)に替わるアクチュエーター材料として期待される。
9Tの磁場中で最大730ppmも体積が膨張
名古屋大学大学院工学研究科の岡本佳比古准教授と兼松智也大学院博士前期課程学生(当時)、竹中康司教授らによる研究グループは2021年4月、磁場を加えると体積が大きく膨張する反強磁性体を発見したと発表した。チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)に替わるアクチュエーター材料として期待される。
磁性体は、磁場を加えると外径がわずかに伸縮する現象が生じる。磁歪(磁場誘起ひずみ)と呼ばれるこの現象は、磁石となるような強磁性体では必ず生じるという。その大きさは1〜10ppmが一般的だが、1000ppmを超える磁歪を示す物質もある。
これらの特長を生かし、強磁性体は磁歪アクチュエーターや超音波発生器などに用いられてきた。ただ、材料として鉛を含むPZTが使われており、代替材料の開発が課題となっていた。
研究グループは今回、磁石にならない反強磁性体の中で、銀とクロムを含む硫化物「AgCrS2」において、大きな磁歪が現れることを発見した。実験では、焼結体の試料に9Tの磁場を加えると、最大730ppmの体積膨張が得られた。
研究グループは、磁場中における膨張で特筆すべき点をいくつか挙げた。その1つは、形状を保持したまま体積が大きく膨張することである。これは発見した磁歪が、磁場を加えたことで生じる磁区の整列によるものではないことを示しているという。もう1つは、大きなひずみが、反強磁性秩序をする−231℃(42K)付近だけに現れ、形状記憶合金のような熱弾性的性質を持っていることだ。この磁歪は、相変化現象を利用した新しい発現機構によって生じていることが分かった。
研究グループによると、大きな磁歪の発現は、一次相転移における二相共存状態が重要な役割を果たしているという。これは、反強磁性体が磁歪材料やアクチュエーターの材料に適していることを示すものである。ただ、全ての反強磁性体が適しているわけではなく、今回用いたAgCrS2では、原子間に働く複数の磁気相互作用の競合が、大きなひずみを生じさせるのに大切な役割を果たしていることが分かった。
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