反強磁性体で磁気熱量効果が最大となる物質発見:不揮発性メモリ材料として期待
東京大学の研究グループは、東北大学や理化学研究所、金沢大学などの研究グループと協力し、反強磁性体物質において、ゼロ磁場での巨大な異常ホール効果を見いだした。ネルンスト効果と呼ばれる磁気熱量効果が、反強磁性体の中で最大値になることも発見した。
巨大な横磁気効果の起源はワイル粒子
東京大学の研究グループは2021年1月、東北大学や理化学研究所、金沢大学などの研究グループと協力し、反強磁性体物質「Mn3Ge」において、ゼロ磁場での巨大な異常ホール効果を見いだし、同時にネルンスト効果と呼ばれる磁気熱量効果が、反強磁性体の中で最大値になることも発見したと発表した。
研究グループは、反強磁性体の異常ホール効果をメモリ材料に活用するため、その磁気構造に着目し研究を行ってきた。強磁性体に比べ高速動作が可能なためである。ただ、反強磁性体は磁化がほとんどなく、これまでの材料では十分な異常ホール効果が得られなかったという。
研究グループはこれまで、反強磁性体物質であるMn3SnやMn3Geにおいて、ゼロ磁場での巨大な異常ホール効果を発見してきた。今回は、ゼロ磁場のMn3Geにおいて、反強磁性体としては過去最大となる異常ホール効果とネルンスト効果を発見した。これが、ワイル粒子に起因する物質のトポロジカル効果であることも突き止めた。
ネルンスト効果とは、与えられた熱流と垂直に起電力が現れる現象のことで、磁性体においては異常ネルンスト効果と呼ばれる。Mn3Geは低温でも反強磁性磁気構造が変わらず、温度100Kでネルンスト係数は最大の1.2μV/Kを示した。内部に巨大な仮想磁場が生まれたことにより、反強磁性体において異常ホール効果と同様、異常ネルンスト効果でも大きな起電力が発生したとみている。
巨大な仮想磁場の起源については、Mn3Geのカゴメ格子と呼ばれる磁気構造に起因するトポロジカルな効果だと考えられている。磁化測定の結果によれば、数百ガウスという比較的小さい磁場で磁化の反転が見られ、ホール効果と同様にネルンスト効果による電圧の符号が、磁場の符号で反転することを観測したという。
第一原理計算を用いた物質のバンド計算からも、仮想磁場の起源として正負のワイル粒子と呼ばれるモノポールが作る運動量空間の磁場が、実空間での仮想磁場として存在することが予言されている。これは固体のトポロジカル効果と呼ばれている。
今回行った計算でも、得られた異常ホール効果と異常ネルンスト効果が実験結果と一致することが分かった。同時に、「カイラル異常と呼ばれる電流と磁場を平行にかけた際に現れる負の磁気抵抗効果」と「大きなプラナーホール効果」も観測した。これらは、ワイル粒子によって引き起こされたもので、新たに提案されたトポロジカル現象を、実験的に検証したことになる。
Mn3Geは極めて安定した物質で、比較的簡便な方法で物質合成が可能である。しかも、安価で毒性の無い元素で構成されているため実用性にも優れており、不揮発性メモリの材料などとしてその応用が期待されている。
今回の研究は、東京大学大学院理学系研究科の中辻知教授と見波将特任研究員、東京大学物性研究所の冨田崇弘特任助教、Taishi Chen特任研究員、Mingxuan Fu特任研究員らの研究グループと、東北大学大学院理学研究科の是常隆准教授、理化学研究所の北谷基治特別研究員、金沢大学ナノマテリアル研究所の石井史之准教授、東京大学大学院工学系研究科の有田亮太郎教授らによる研究グループが共同で行った。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 蚊の嗅覚受容体を用いた匂いセンサーを高精度化
東京大学および、神奈川県立産業技術総合研究所の研究グループは2021年1月、呼気に混合した0.5ppbレベルの微量の匂い物質を検出できる匂いセンサーを開発したと発表した。 - 東京大学ら、高次トポロジカル絶縁体を実証
東京大学と東京工業大学の研究グループは、産業技術総合研究所や大阪大学の研究グループと共同で、トポロジカル原子層の積み方によって、スピン流の通り道を変えられる「高次トポロジカル絶縁体」が発現することを実証した。 - 東京大ら、高感度有機半導体ひずみセンサーを開発
東京大学とパイクリスタルの共同研究グループは、大面積で高性能有機半導体単結晶ウエハーの表面上に、二次元電子系を選択的に形成することができるドーピング手法を新たに開発。この手法を用い、感度が従来の約10倍という「有機半導体ひずみセンサー」を実現した。 - 両面ゲートIGBT、スイッチング損失を6割低減
東京大学生産技術研究所は、シリコンIGBTの表裏両面にMOSトランジスタのゲートを設けた「両面ゲートIGBT」を作製し、表面だけの従来構造に比べ、スイッチング損失を62%低減できることを実証した。 - 4.3MHz動作の高速n型有機トランジスタを開発
東京大学と筑波大学の研究者らによる共同研究グループは、印刷が可能でバンド伝導性を示すn型有機半導体単結晶薄膜を用い、4.3MHzで動作する高速n型有機トランジスタを開発した。 - 東京大、大面積の強誘電体薄膜を評価可能に
東京大学らの研究グループは、強誘電体薄膜における分極の向きや大きさなど、分極スペクトル情報を得ることができる新たな手法を開発した。この手法を用いると、実用的なデバイスを評価するのに十分な面積に対応できるという。