半導体不足は「ジャストインタイム」が生んだ弊害、TSMCが急所を握る自動運転車:湯之上隆のナノフォーカス(37)(5/5 ページ)
深刻な半導体不足が続く中、自動車メーカーは苦境に陥っている。だが、この苦境は自動車メーカー自らが生み出したものではないか。特に筆者は、「ジャストインタイム」生産方式が諸悪の根源だと考えている。
CASEの時代の車載半導体
車載半導体不足が長期化する二つ目の理由は、クルマ産業が100年に一度といわれる「CASE (Connected、Autonomous/Automated、Shared、Electric)」の大変革期を迎えていることにある。特に、“C”には5G(第5世代 移動通信)の通信半導体が、“A”には自動運転用の人工知能(AI)半導体が必要となる。
その兆候は、2016年から2019年にかけて、車載半導体のうち、ロジックの出荷額が2.7倍に急拡大していることに見て取れる(図12)。さらに、2015年から2019年に1.9倍になった自動運転システムは、2023年までに2.2倍に拡大すると予測されている(図13)。自動運転システムには、5G通信半導体とAI半導体が必要不可欠であり、最先端の車載ロジック市場が急拡大すると推測される。
そして、現在7〜5nmの最先端プロセスで車載用ロジック半導体を生産することができるのは、世界で唯1社、TSMCしかない。そのため、コネクテッドされた自動運転車をつくろうとする完成車メーカーは、テイア1および車載半導体メーカー経由で、TSMCに生産委託するしかない(図14)。要するに、自動運転車の急所はTSMCが握っており、TSMCがボトルネックになっているというわけだ。
完成車メーカーへの警告
車載半導体の供給不足が長期化する原因は、ジャスト・イン・タイムの生産方式を適用してきたことにある。完成車メーカーが自動運転車をつくりたいならば、田んぼのあぜ道を時速100kmでぶっ飛ばし続けているTSMCに最先端ロジック半導体を生産委託するしか手段がないのである。
車載半導体を、ネジやクギと同列の部品として扱い、ジャスト・イン・タイムを適用し続ける完成車メーカーは、早晩、自動運転車を生産できなくなるだろう。それは、CASEの時代に生き残ることができないことを意味する。
「負けに不思議の負けなし」――。
論理的に考える頭があるのなら、どうするべきかは明白だ。少なくとも、最先端プロセスが必要となる車載半導体について言えば、ジャスト・イン・タイムは時代錯誤の生産方式である。
セミナー開催のお知らせ
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筆者プロフィール
湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長
1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。
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