半導体不足は「ジャストインタイム」が生んだ弊害、TSMCが急所を握る自動運転車:湯之上隆のナノフォーカス(37)(4/5 ページ)
深刻な半導体不足が続く中、自動車メーカーは苦境に陥っている。だが、この苦境は自動車メーカー自らが生み出したものではないか。特に筆者は、「ジャストインタイム」生産方式が諸悪の根源だと考えている。
車載半導体不足はいつ解消するのか
しかし驚くべきことに、TSMCの車載半導体の割合は、2021年第1四半期に、コロナ前の4%に戻り、出荷額ではコロナ前を1億米ドル程上回る5.17億米ドルとなっている。従って、TSMCは(相当苦しかったと思われるが)、各国政府の要請に応えて、車載半導体を増産したのである。
にもかかわらず、TSMCは4月15日の決算報告会で、「世界的な半導体不足は依然、業界全体で深刻で年内は続くとみている。解消時期はスマートフォン向けなどの先端品が22年、自動車向けなどの一般品が23年になるとの見通しを示した」という(4月15日付日経新聞)。
2月初旬に米テキサス州に突然襲来した寒波で停電し、InfineonとNXPの半導体工場が停止した。しかし、NXPは3月13日、Infineonは3月19日に、それぞれ生産を再開した(関連記事:「InfineonとNXP、寒波で停止していた工場を再開)。そして、Infineonは6月に停電前の状態に戻る予定であると発表した。となると、9〜10月には出荷も元に戻るだろう。恐らくNXPも状況は同様であり、少なくともことし中に寒波による停電の影響は解消されるに違いない。
また、3月19日に火災が発生したルネサス那珂工場の300mmライン(N3棟)については、既に4月9日にクリーンルームの運転が再開され(「ルネサス「N3棟」、クリーンルームの除染が完了」)、100〜120日後の6〜7月末には、火災前の出荷に戻ると発表している(「【那珂工場火災】ルネサス、1カ月以内の生産再開に向け順調ぶりを強調」)。
このように、寒波で停電したInfineonとNXPおよび、火災で出荷が止まったルネサス那珂工場に起因した車載半導体不足は、ことし中に片が付くはずである。それなのに、TSMCは、車載半導体不足が解消するのは2023年との見通しとの見解を示した。なぜ、2年もかかるのだろうか?
なぜ車載半導体の供給不足が長期化するのか
この理由は、2つあると考えている。その一つは、クルマメーカーが採用しているジャスト・イン・タイムの生産方式が招いた弊害である。
ここでTSMCに、月産8万枚の車載半導体ファブがあったと仮定する(図11)。実際には、TSMCにおいては、車載半導体は0.25μm以上〜5nmまで、広範囲に分布しており、車載専用ファブがあるわけではない。従って、図11は、あくまで仮想的な車載半導体ファブである。
図11の最上段は、2020年の日本のクルマの減産台数である。また、図11の上段は月産8万枚のファブのインプットの状況を示しており、下段はアウトプットを示している。例えば、2019年11月にインプットされた1万枚のウエハーが、その上に車載半導体が作られてアウトプットとして出てくるのは3カ月後の2020年2月になる。
さて、2020年2月に日本のクルマ生産が6.6万台減産となる。例えばTSMCに生産委託しているルネサスは、この減産分を見て(というより、デンソーなどティア1の指示で)、2021年2月にTSMCへの車載半導体の生産委託を1万枚減らすと思われる。
ところが、TSMCには世界中のファブレスが生産委託の順番待ちをしているため(半年〜1年待ちと聞いている)、車載半導体のキャンセルで空いた1万枚分はあっという間に別の半導体で埋まってしまう(図11ではスマホ用と書いた)。
そして、このスマホ用半導体を生産委託したファブレスは、少なくとも1年間契約をする。もしかしたら、2〜3年の長期契約を結ぶ可能性もある(最近TSMCは3〜5年契約を求めているという報道もある(参考:ニュースイッチ)。
スクランブル的に対応したTSMC
以上のように、クルマ減産→TSMCへの車載半導体のキャンセル→その穴を他の半導体が埋める、ということが2020年2月から8月まで毎月続いた。すると、9月以降、クルマの生産が回復し、ルネサスなどがTSMCに車載半導体を再委託しようとしても、そのキャパシティはTSMCにはない。
しかし、TSMCは図10で説明したように、2020年第3四半期に2%と半減した車載半導体を第4四半期に3%まで回復させ、2021年第1四半期には4%に戻している。恐らくこれは、TSMCには本当は車載半導体を流すキャパシティは無いけれど、各国政府に圧力をかけられたため、スクランブル的にロットを投入して無理やり、車載半導体を生産したと推測している。車載半導体の規模が小さいから可能になった芸当かもしれない。
といっても、このようなスクランブルを続けることは非現実的であるため、車載半導体の穴を埋めてしまったファブレスのビジネスが終了して元に戻すか、またはTSMCが新規に半導体工場を建設して、車載半導体用のキャパシティを拡大するしか、抜本的な解決策は無い。
以上のような状況により、TSMCは、「車載半導体不足が解消するのは2023年」と言ったのではないか。
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