検索
連載

「バンクシーの絵を焼き、NFT化する」という狂気踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(12)ブロックチェーン(6)(3/9 ページ)

「ブロックチェーン」シリーズの最終回となる今回は、ここ数カ月話題になっている「NFT(Non-Fungible Token)」を取り上げます。バンクシーの絵画焼却という衝撃的(?)な出来事をきっかけに広がったバズワード「NFT」。これは一体、何なのでしょうか。いろいろと調べて考察した結果、「バンクシーの絵画を焼いた奴はバカ」という結論に達した経緯とともに解説します。

Share
Tweet
LINE
Hatena

「NFT」って何?

 さて、ここからは、今回のテーマであるNFTについてお話したいと思います。

 NFTとは、Non-Fungible Token: 非代替性トークンの略称で、文字通りトークンです。トークンとは、各種の意味があるのですが、今回は、PCを使って、インターネットバンクにログインする時に使う、ワンタイムパスワード生成用のデバイスに表示される「数字(文字)列」のようなものを言うことにします。

 このデバイスに表示される「数字(文字)列」」を使うことで、(1)銀行口座の所有者であることが主張できて、(2)ログインして、残高の確認や振り込みができます。

 これと同様に、NFTを持っていることで、(1)このNFTの中に(暗号化されて)記載されているURLのコンテンツの所有者は私である、と主張することができて、(2)NFTをその所有者を別の人に移転することができるようになります。

 上記(2)は、所有者を移転することによって報酬を受けとることができるので、「通貨」としても使用することもできることになります。ですから、NFTは、仮想通貨の一つである、とも言えるのです。

 つまりですね。この話を上記の「バンクシー作品の焼却処分」の事件に当てはめると、こういうことが言えるようになるのです。

(1)バンクシーの作品は、燃やしてしまって存在しない。今は、その作品をデジタル化されたものが残っているだけである。

(2)デジタル化された作品は、簡単にコピされてしまうだろう。その結果、世界中に何千、何百万のコピペが出まわることになるだろう。

(3)だが、そのデジタル化された作品の所有権を持っているのは、この私だけである。なぜ、そう言えるのか ―― その所有権者である"私"の名前が、ブロックチェーンによって作り出されるトークンに記載されているからである

(4)故に、"私"以外の誰かが、そのデジタル化されたバンクシーの作品で、商売しようとしてしても無駄である。なぜなら、"私"が正当な所有権者であることは、ブロックチェーンより明らかであるからである

―― どうだ? 悔しかろう? 人のモノでラクして(コピペして)商売できなくて気の毒だなぁ。悔しかったら、ブロックチェーンの中身を書き換えてみたらどうだ? もっとも、そんなことは、できっこないだろうがな、わっはっはっは!!

(5)この所有権が欲しいか? それなら、その権利を譲ってやらんでもないぞ。よし、では5億円で売ろう。じゃあ、このトークンに記載された所有者を「私」から「あなた」にしたことをブロックチェーンに追加して、あなたに譲渡しよう。

 ―― 以上、非代替性トークン(Non-Fungible Token、NFT)の解説でした。

 ……いや、冗談抜きに、NFTって、こういうものなのです。

 つまり、「デジタルの世界でのコピペは防ぎようがないが、ブロックチェーンを使えば、その真の所有者だけは、絶対的に確定する(いちゃもんが付けられない)」が実現される、という点が最大のウリです。

 加えて、その所有権は販売することができます。その結果、新しい所有権者は、そのコンテンツで自由に商売することができるようになります。台帳に記載された新しい所有権者は、コンテンツの無断使用の差し止めや損害賠償も可能となります ―― 理屈の上では、ですが(これについては、後述します)。

 で、ここでちょっと混乱しそうになるのが「トークン」という言葉です。

 トークンというと、「マージャンの点棒」みたいなイメージだと思います。そのトークンなるものが、「所有者の証」みたいな感じします。でも実際のところ、所有権の所有者は、分散台帳に記載されているだけで、「所有者の証」に相当する、"モノ"も"電子データ"も存在しないのです。

 では、「トークン」って何だ? と問われたら、私は「自分の仮想通貨の送金金額、または自分に所有権の譲渡先の人間の名前を記載する時に、台帳を開くための“鍵(秘密鍵)”」という理解をしています。

 その“鍵”を使うと、台帳に記載できる状態となり、書き換えたその台帳の写しは世界中にバラまかれることになります。

 で、この“鍵”を入れているのが財布(ウォレット)で、財布の中には、そこに入っているのは鍵(秘密鍵)が一本だけで、現金(に相当するデータ)は1円も入っていません。

 なお、このウォレットは、ビットコインまたはNFTのオーナーが所有するのか、あるいはビットコインまたはNFTの取引所で管理してもらうのかは、ユーザーが選べるようです。

ブロックチェーンの「禁じ手」

 ちょっと話は逸れますが、これまでも何度もビットコインなどの仮想通貨が盗まれるという事件がありました。この手の仮想通貨の盗難事件は、桁違いです。56億円相当とか、580億円相当とか。

 ところが、仮想通貨というのは実体がないので「盗む」というのは、誤解を招く言い方です。

 正しくは、悪意の第三者が他人の秘密鍵を盗んで、台帳を開き、そこに『ここにある金、全部、私に送金する』と記載しただけです。つまり、「台帳が書き換えられただけ」のことなのです。

 仮想通貨のブロックチェーンは指示された処理を、指示された通りに実施しました。ブロックチェーンを含む仮想通貨システムは、100%、完全正確に稼働していたのです。故に、責められるべきは、システムではなく、「秘密鍵を盗まれた取引所、または個人オーナー」です。

 ちなみに、この台帳の内容は世界中に開示されているので、送信先の人物、つまり犯人は明確に分かります ―― ただ、犯人の名前が、こんな感じなのです。

ary7oq4hiluafdgyoqr78ytuhfasioduyg8o814835797aryt7o2589

 住所、氏名、年齢、一切なし。これで、どうやって犯人を特定するか ―― できるわけありません。

 正しい手続きで、送金情報がブロックチェーンに記載された以上、その記録はもう取り消すことができません。もはや、「泣き寝入り」の一択しかないのです ―― が、「禁じ手」が一つだけあるのです。

 その「仮想通貨が盗まれる」時に作られたブロックチェーンのブロックを、力づくで「なかったこと」にしてしまうのです。世界中で分散管理されている複数の台帳の最新ページを、一斉に破って捨てる ―― これが「ハードフォークによる解決方法」です。

 ご理解頂けるかと思いますが、この「ハードフォーク」による「なかったことにする」処理は、『改ざん絶対不可能』をうたうブロックチェーンの理念を揺がす大問題でした。

 しかし、ユーザーや取引所は「損害額56億円をなかったことにしたい」の魅力には勝てませんでした。そして、最終的に終的にハードフォークを実施したのです。

 これが、いわゆる「The DAO事件」の概要です。

 閑話休題。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る