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「バンクシーの絵を焼き、NFT化する」という狂気踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(12)ブロックチェーン(6)(5/9 ページ)

「ブロックチェーン」シリーズの最終回となる今回は、ここ数カ月話題になっている「NFT(Non-Fungible Token)」を取り上げます。バンクシーの絵画焼却という衝撃的(?)な出来事をきっかけに広がったバズワード「NFT」。これは一体、何なのでしょうか。いろいろと調べて考察した結果、「バンクシーの絵画を焼いた奴はバカ」という結論に達した経緯とともに解説します。

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異常な高値で取引されるNFT

 さて、ここ1〜2カ月の間、NFTは、世間で大騒ぎとなっています。それは、私たちが想像もしなかったモノ(コンテンツ)が、NFTとして、常軌を逸する価格で取引されているからです。

 最近のNFT話題としては、冒頭の「バンクシー作品の焼却処分」の事件と、アーティストのビープルさんの作品「Everydays: The First 5,000 Days」の76億円が2大事件と言えます。

 私が理解不能なのが、「他人の最初のツイート」とか、「プロスポーツ選手のダンクシュートの動画」です。これらのコンテンツは、パソコンやスマホで簡単に見つけることができます(少なくとも、このコラム執筆時に、これらのコンテンツへの検索や視聴はできました)。

 つまり、2000万円〜2億円払って得られるものは「所有権を持っている」という自己満足なのです。

 もっとも、例えば、このダンクシュートの映像を使った映画の製作や書籍の出版に対して、著作使用料を請求する、という可能性はありますので、コンテンツビジネスとして成立する可能性はあります。

 ただ、それでも、このコラムの図で使っているようなコピペは、著作権法32条1項の「引用」として使用しているので、著作権の権利行使の対象外となります(実際には、裁判に持ち込んでみないと分からないですが)。ですので、コンテンツビジネスとして成立させるのは、難しいような気がします。

 この話題についての、とある夫婦の会話を紹介したいと思います

江端:「『今、あなたの目の前に76億円があります。これを、今すぐ使ってください』って言われたら、何に使う?」

嫁さん:「家のローンの支払い」

江端:「じゃあ、家のローンの支払後の残金はどうする?」

嫁さん:「改めて言われると、困るなあ。正直、思い付かない」

江端:「じゃあ次の質問。『このデジ絵、実は“俺のモノ”なんだぜ!』……って自慢できると、“うれしい”?」

嫁さん:「まあ、価値観は人それぞれだから。“うれしい”人もいるんじゃない?」

江端:「じゃあ、その“うれしい”を76億円払って、買いたいと思う?」

嫁さん:「思わない。例えば、それが、1万円くらいだったら、考える可能性は、微(かす)かにあるかもしれないけど」

江端:「つまり、我が家の1万円が、76億円と同じ感覚になるような人にとっては、意味があるのかな。それとも、目の前にある「76億円」の処分に困った人が、話題作りのために購入したのか ―― あるいは、76億円を超えるビジネスモデルがあるのか……まあ、いずれにしても、われわれ、下々(しもじも)の者には、関係のない話、ということだな」

 閑話休題。

 いずれにしても、私の価値観に合致しないNFTの取引の話(特に金額の話)は、ムカムカします。そんなものに金を出すなら、「もっと少額でいいから、私に研究費をよこせ!」と叫びたくなってしまいます。

 さて、前半はここまでです。ここまでは、NFTの仕組みや、景気の良いお話、そして、デジ絵を含む、コンテンツ創作者にとっては、未来の明るい夢をお見せしてきましたが ―― 私のコラムが、そんな風に美しく完結するはずありません

 では、ここからの後半は、NFTそのものの問題点、そしてNFTでは解決できない問題について、うんざりするほどしつこくお話していきたいと思います。

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