「バンクシーの絵を焼き、NFT化する」という狂気:踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(12)ブロックチェーン(6)(7/9 ページ)
「ブロックチェーン」シリーズの最終回となる今回は、ここ数カ月話題になっている「NFT(Non-Fungible Token)」を取り上げます。バンクシーの絵画焼却という衝撃的(?)な出来事をきっかけに広がったバズワード「NFT」。これは一体、何なのでしょうか。いろいろと調べて考察した結果、「バンクシーの絵画を焼いた奴はバカ」という結論に達した経緯とともに解説します。
本当に難しい、権利問題
NFTだけでなく、私たち知財に関わらざるを得ない研究員にとっても、権利問題は本当に難しいです。それ故、山のように裁判の判例があり、それを支える法律や制度ができているのです ―― 130年以上前から。
もっとも、NFTが対象とするのは、世の中の人間以外の有体物/無体物の全てですので、これらの法律や制度だけで、全てがなんとかなる訳ではありません。
例えば、意匠法は、“モノ”を保護する法律であり、独占排他権が発生しますが、美術品やデザインそのものを直接保護できません。
著作権法にも、登録制度はあるのですが、これは「第三者対抗要件」であって、「権利」が発生する訳ではありません。紛争発生時には、司法(裁判所)判断が最終手段となります。
不動産(家とか土地)にNFTなんぞを使ったところで、不動産の登記時に発行される、登記済権利証(現在の登記識別情報)に対抗できる訳がありません。NFTによる所有権主を主張して裁判になったとしても、裁判官に「アホか……」と言われて、裁判が始まる前に請求棄却されて、おしまいです。
今、仮想通貨(暗号資産)については、一定の条件下(特定取引所を介することで)、法定通貨との換金が可能となっていますが、NFTを通貨として扱うのは、絶望的に難しいと思います。
NFTにひもづくコンテンツ(例:江端のデジ絵)に客観的な価格が付けられるか、という問題の他、前述の複雑に絡みあった権利問題をスパっと解決するソリューションが、この地球上に存在していないからです。
「Second Life」はなぜコケたのか?
そういえば ―― 「不動産」で思い出しましたが、皆さんは、「Second Life」を覚えていますか?
仮想3D空間上に、土地を買い、家を立てて、そこで、第二の人生を送る、というコンセプトで、一世を風靡し、あっという間に話題に上がらなくなった、ネットサービスです*)。
*)今回調べてみたのですが、まだ運用はされているようです。映画「マトリックス」、アニメ「ソードアート・オンライン」のようなVR/ARを使った仮想世界へのダイブなどが実現できれば、状況は一変するかもしれませんが、現在の技術では、まだまだ無理です。
「Second Lifeとは何か? そしてなぜコケたか?」について、私なりの分析結果を、以下の表にまとめてみました。
一言で言えば、「ゲームを超えるコンセプトを作り出せなかった」のではないかと思っています。
そもそも、私が、今更ながら「Second Life」を調べてみようと思ったのは、NFTを調べている最中に、この「仮想不動産の売買」というフレーズが出てきたからです。
今、まさに、現在進行形で大騒ぎになっているNFTですが、2019年9月に出版されたブロックチェーンの解説本、287ページの中で、NFTについて解説されている本は、わずか1ページ強、"CryptoKitties"でした。
そもそも、NFTは、ゲームキャラクターの販売から始まっていたのです。その「所有者の主張」手段として」仮想通貨のブロックチェーンを使って「トークン」を生成して取りあつかう形でスタートしたのです。
ブロックチェーンゲームのマーケットプレイスOpenSea(オープンシー)では、ゲームキャラクターの売買ができます。自分が育てたゲームキャラクターを、それに応じた値段で売りに出せます*)。
*)ちなみに、ゲームキャラクターを育成する、在宅ビジネスもあるようです。
さらに、ゲーム空間内の土地、(仮想不動産)も、売却の対象となっています。
これらの仮想不動産が、ちょっと信じられないくらいの高額な値段で取引されているので、ビックリしました。これは、ゲームの中の仮想世界が、自分の「第2の人生」であると、心の底から信じなければ、成立しない世界観です。
「ゲームの中こそが、本当の自分の人生」 ―― 私、そういう考え方、生き方、好きです。現実世界はつらいものですから、「第2の人生」を作っておくことは、大切だと思っています。
ただ、一つ疑問があるとすれば、「ゲームキャラクターや仮想不動産を、NFTなどという大層な仕組みを使ってまで、管理しなければならない理由は何だったのだろう」ということです。
このようなアイテム管理は、ゲーム参加者を把握しているゲームの運営会社が行えば、それで足りるだろうに、と思うのです ―― 「こんな仰々しいNFTが必要だったのか?」と。
ただ、今の、「NFTブーム」は、ここ(ゲーム)から始まり、そして、今や、NFTにとどまらず、「トークンビジネス」と呼ばれるようなものまで登場してきていますので、「NFTにした意義はあった」と言えるでしょう。
私は ―― イーサリアムの研究員が、ブロックチェーンの応用方法として、シャレでゲームに適用してみたら、『いつの間にか、こんなことになってしまった』 ―― というオチじゃないかなぁ、と邪推しています。技術分野では、そういうこと、結構あります(よく知っています)。
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