「バンクシーの絵を焼き、NFT化する」という狂気:踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(12)ブロックチェーン(6)(8/9 ページ)
「ブロックチェーン」シリーズの最終回となる今回は、ここ数カ月話題になっている「NFT(Non-Fungible Token)」を取り上げます。バンクシーの絵画焼却という衝撃的(?)な出来事をきっかけに広がったバズワード「NFT」。これは一体、何なのでしょうか。いろいろと調べて考察した結果、「バンクシーの絵画を焼いた奴はバカ」という結論に達した経緯とともに解説します。
ブロックチェーンのテーマは、一貫して「価値」と「信用」だった
では、最後に、再度、FTとNFTの比較を行ってみたいと思います。
比較してみると、NFTの方が、モノに対する価値基準が、個人の主観(好き嫌い)に依拠している部分が大きくて、一見不安定そうに見えますが、基本的に、FTもNFTも別段大きな違いがないことが分かります。
こうやってまとめてみると分かってくるのですが、今回の「ブロックチェーン」シリーズのテーマは、一貫して、「価値」と「信用」だったなぁ、と思います。
―― 一度も出会ったこともない、姿を見たことも、話をしたこともない人間を、どうやって“信じる”か?
そんな無茶な命題に対して、
(1)コンセンサスアルゴリズムという、「喧嘩(けんか)上等」の仕組みを組み込んだり、
(2)契約書の中に無関係の別の契約書を紛れ込ませるという鎖(チェーン)と作ってみたり、
(3)共通に信じられるモノ(日本国政府)を仲介させたり、
(4)天皇陛下が「ルート認証局」で、天皇制が「ブロックチェーン」であるという解釈をしてみたり、
(5)ぶっちゃけ、「信用」の裏側には、警察や軍隊のような「暴力装置」が必須であることを明らかにしたり、
などを、今回の「ブロックチェーン」シリーズでは、技術面からいろいろと説明させて頂きました。
その一方で、私たち人類というものは、せっかく生み出されたこれらの技術を活用できず、簡単にバズワードを信じてしまい、裏切られ、何度痛い目に遭っても、そこから学ぶことができない、相当に「マヌケ」な存在であることも分かってしまいました。
「ブロックチェーン」とは、IT技術を使った人工与信システムである、ということは間違いありません。しかし、これが「信用システムの最終形」でないことは、ハッキリしています。
とはいえ、私の中では、与信システムとしては、「暴力装置」の首位は揺がないとしても、「ブロックチェーン」が次点に浮上してきています。
これは、ひねくれエンジニアである江端としては、「最大級の賛辞」といっても良いものです。
ブロックチェーンのアプリケーション
では、本シリーズ最後に、これまで調べてきた、ブロックチェーンのアプリケーションを並べてみたいと思います。
ブロックチェーンのアプリケーションについては、予想より多く調べることができたと思います。
心残りなのは、ブロックチェーンによるフェイクニュース対応です。これはちゃんと調べたかったので、チャンスがあれば、EE Times Japan編集部のMさんにお願いしたいと考えております。
あとは、ブロックチェーン選挙システム(=リモート投票)ですね。我が国は完全にビハインドなので、これを何とかしたいと思っています。前回も述べましたが、中学や高校の生徒会選挙の投票システムあたりで、実証実験を行うのが良いと思います。
これを導入したら、その学校の著名度は一気に爆上がりです。「甲子園大会での優勝校」のようなアナログでコストもかかる著名度獲得アプローチより、圧倒的に安価で、我が国のデジタル教育や、我が国のニーズにもドンピシャです。学校関係者の皆さまはご検討ください。
あと気にかかるのは、「このアプリ、別にブロックチェーンなくても実現できるじゃないのか?」というものにまで、ブロックチェーンを使おうとしている点ですね。
これは前述した、
―― バズワードに関わる技術には、研究費/開発費の予算が簡単に付くから
が理由です。間違いありません。
では、今回の内容をまとめます。
(1)今回は「ブロックチェーン」シリーズの最終回です。たまたま、現在進行形でホットな話題である非代替性トークン(Non-Fungible Token、以下、NFTという)を取り上げてみました。NFTは、仮想通貨のブロックチェーンシステムを援用した、無体物/有体物などの制限なく、その“モノ”の「所有権の主張」が可能とするものおよび、この仕組みについて説明しました。
(2)「トークン」というものが、ブロックチェーンである分散台帳を開錠する“鍵(秘密鍵)”であることを説明し、仮想通貨の盗難事件が、この“鍵”の漏洩によるヒューマンエラーが原因であり、仮想通貨システムのブロックチェーン自体は、完全に無罪であることを説明しました。
(3)さらに、NFTの技術的内容を説明するために、FT(Fungible Token)であるビットコインシステムとの比較を行い、その運用方法について、「NFT取引所」「NFTマーケット」「NFT作成グループ」などを具体的に図解して、解説を試みました。またNFTが、コンテンツなどの物件の取引ではなく、単に「所有権の主張」ができるにすぎないことも説明しました。
(4)実際に高額で取引されているNFTを紹介し、その“金額”が理解不能である、という個人的見解を加えました。
(5)さらにNFTの問題点を著作権調整関係からアプローチし、さらにYouTube等で解説されている内容の多くが、技術的には「デタラメ」であることを明らかにし、さらに、私が気がついたNFTの問題が、既に現実でも発生していることを説明しました。
(6)その他、十数年前に一世を風靡した「第二の人生を送る」というコンセプトの仮想空間アプリケーション「Second Life」について説明を行い、それとほとんど同じことが、NFTを使ったゲームアプリで再現されていることを報告しました。
以上です。
絵を焼いた奴は「やっぱりバカ」
さて、最後の冒頭の、「絵画を焼いた奴は、やっぱりバカ」の話で、このシリーズを締めくくりましょう。
物品であるNFTにすることで、その価格が10倍になったとしても、そもそも、NFTそのものが、マーケットから評価されているとはいえないものであり、ビジネスの可能性は未知数です。
今回の私のNFTの検討結果によれば、NFTがコケる可能性は圧倒的に高いです。そもそも「所有権の主張」という権利に、どれほどの価値があるかは分からないです(ちなみに私は、全然分かりません)。
特に私は、複雑な権利関係(主に特許権ですが)で、何度となく胃の痛い思いをしてきたと自負しており、また、その解決に奔走している人達から多くの話も聞いてきました(初音ミク、ピアプロ、クリテイティブ・コモン・ライセンス,TPPによる著作権法の非親告罪化、等々)
ぶっちゃけ、現時点で、私は、本質的にこれらの問題を解決できないNFTなんぞに、全く期待していません。
とはいえ、これまで私の予想は結構外れてきました(「Twitter大嫌いな研究員が、覚悟を決めた日」)。
例えば、ビットコインは現時点では暴落することなく、爆上がりしているようです(私が実験用に購入したビットコインの残金1172円分は、今調べたところ、2548円分になっていました)。
だから、今のうちに、逃げを打っておくべきとも思いました。
「絵画を焼いた奴は、やっぱりバカ」 ―― と、言った私こそが、バカでした
と言わなければならなくなった時は ―― 正直に、そう言います。
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