東北大ら、カイラルスピン構造の恒常回転を発見:ノンコリニア反強磁性体を独自開発
東北大学と日本原子力研究開発機構の共同研究チームは、高品質のノンコリニア(非共線的)反強磁性薄膜を独自に開発し、内部のカイラルスピン構造が無磁場中で恒常的に回転する現象を発見した。
回転周波数はGHz程度、入力電流の大きさで変化
東北大学と日本原子力研究開発機構の共同研究チームは2021年5月、高品質のノンコリニア(非共線的)反強磁性薄膜を独自に開発し、内部のカイラルスピン構造が無磁場中で恒常的に回転する現象を発見したと発表した。回転の周波数はGHz程度であり、印加する電流の大きさによって変化することが分かった。
共同研究チームは今回、タングステン(W)とタンタル(Ta)の積層下地膜上に、ノンコリニア反強磁性材料である「マンガン‐スズ合金(Mn3Sn)」を堆積し、白金(Pt)でキャップをした構造の試料を作製した。この試料の膜面内方向に電流を印加し、Mn3Snのカイラルスピン構造に誘起される現象を調べた。
試料に電流を印加すると、W/Ta下地層とPtキャップ層におけるスピンホール効果によって、膜面直方向にスピンの流れが生じた。これが非共線的に配列した磁気モーメントに作用して、カイラルスピン構造が恒常的に回転することが分かった。理論計算によると回転速度はおよそ1GHzであり、印加する電流の大きさによって回転速度を効率よく制御できることを確認した。
今回発見したカイラルスピン構造の恒常回転現象は、「電流の大きさで運動の周波数を連続的に変調できる」ことや、「運動が恒常的に継続する」という特長を持つ。これらは従来の、「強磁性体の発振・共鳴」や「カイラルスピンの反転、ネールベクトルの回転」などとは異なる現象だという。
今回発見された現象を利用すれば、広い周波数帯をカバーする発振器や、高い信頼性を有する物理乱数生成器などを実現できる可能性が高いとみられている。
今回の成果は、東北大学材料科学高等研究所の竹内祐太朗特任助教、学際科学フロンティア研究所の山根結太助教、電気通信研究所の深見俊輔教授、大野英男教授(現東北大学総長)および、日本原子力研究開発機構の家田淳一研究主幹らの共同研究チームによるものである。
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