東北大ら、新手法でインダクタンスを広範囲に制御:電子スピンの特性を活用
日本原子力研究開発機構(原子力機構)は、東北大学と共同で、電子スピンの特性を活用して、「インダクタンス」を広い範囲で制御する方法を発見した。
負のインダクタンスを持つ単一素子で電磁ノイズを除去
日本原子力研究開発機構(原子力機構)先端基礎研究センタースピン−エネルギー変換材料科学研究グループの家田淳一研究主幹は2021年3月、東北大学学際科学フロンティア研究所の山根結太助教と共同で、電子スピンの特性を活用して、「インダクタンス」を広い範囲で制御する方法を発見したと発表した。
インダクタンスは、導線を流れる電流の変化が誘導起電力となって表れる性質。この特性を得るための素子がインダクターである。電気回路で電流の急激な変化を安定化させる機能があり、電源回路や高周波フィルター、変圧器などに用いられる。ところが、強いインダクタンスを得ようとすれば、素子サイズが大きくなるため、電子機器の小型軽量に向けては課題となっていた。
こうした中、注目されているのが電子スピンを利用するスピントロニクス技術に基づいた「創発インダクター」である。2019年に理化学研究所が理論提案を行った。インダクタンスの強さが素子の断面積に反比例し、小さい素子ほど強いインダクタンスを実現できる、という特長がある。その後、「らせん磁性体」を用いた実験で、素子断面積への依存性が検証された。しかし、「負の値を示すインダクタンス」については、その原因が解明されていなかった。
そこで研究グループは、「ラシュバ型のスピン軌道結合」の効果を基礎理論に取り込み、これが創発インダクターに与える影響を実験により調べた。着目したのは、創発インダクターの動作メカニズムである。電子のスピンを介して電流が磁気の向き(磁化)を動かす「スピントルク」と、磁化の運動が電子スピンを介して電圧を生み出す「スピン起電力」という、2つの基礎過程に分解できる。
研究グループはこれまで、スピン起電力について詳細な研究を行ってきた。今回はその知見を応用し、創発インダクターの基礎過程を拡張することにした。この結果、「ラシュバスピン軌道結合が、らせん磁性体の運動によるインダクタンスを飛躍的に増幅する」ことと、「磁気の感じる摩擦の効果を通じて、インダクタンスの符号を正負どちらにも設計できる」ことを突き止めた。
研究グループによれば、創発インダクターは極めて小さい電力制御素子を実現することができ、負のインダクタンスを持つ素子を、単一の受動素子で実現できる可能性があるという。
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