反強磁性金属のスピン反転、10ピコ秒以下を実証:テラヘルツ電子デバイス実現に道筋
東京大学らの研究グループは、トポロジカル反強磁性金属においてスピン反転の時間が10ピコ秒以下と極めて速いことを実証した。読み書き速度は、現行のMRAMに比べ10〜100倍も早くなるという。
現行のMRAMに比べ、読み書き速度は10〜100倍に
東京大学らの研究グループは2021年4月、トポロジカル反強磁性金属においてスピン反転の時間が10ピコ秒以下と極めて速いことを実証した。読み書き速度は、強磁性金属を用いた現行のMRAMに比べ10〜100倍も速くなるという。
研究グループは、MRAMの書き込み速度をより高速にするため、反強磁性金属に着目した。特に、拡張八極子偏極を有する特殊な反強磁性体であるトポロジカル反強磁性金属の「Mn3Sn」に注目した。反強磁性金属は強磁性金属と比べ、スピン反転の速度が100〜1000倍も速いと予想されている。しかし、反強磁性金属におけるスピン反転を時間軸で観測した事例は、これまでなかったという。
研究グループは今回、「ストロボスコープ法」と呼ばれる手法を用いて、Mn3Snにおけるスピンの動きを検出することに成功した。これまでも強磁性金属におけるスピンの動き検出では用いられてきた手法だが、「反強磁性金属にはストロボスコープ法を適用できない」といわれてきた。今回は、Mn3Snの拡張八極子偏極を利用することで、適用を可能にした。
ストロボスコープ法を用いた実験により、隣接した個々のスピンが互いに反対方向に運動する「モードI」では、1ピコ秒程度の速い周期で振動を観測することができた。個々のスピンが全て同じ方向に運動する強磁性体と類似した「モードII」では、数十ピコ秒の比較的遅い振動が、極めて速く減衰することが分かった。モードIIはトポロジカル反強磁性における拡張八極子の振動モードに対応したものである。超高速減衰は、Mn3Snにおいて超高速スピン反転が可能なことを示すものだという。
左はストロボスコープ法による測定系の概略。中央は隣接した個々のスピンが互いに反対方向に運動する「モードI」の観測結果。右は個々のスピンが全て同じ方向に運動する強磁性体と類似した「モードII」の観測結果 (クックで拡大) 出典:東京大学
これらの実験結果から、トポロジカル反強磁性金属において強磁性体の磁極と同じ働きをする拡張八極子偏極の減衰が、10ピコ秒以下と極めて速いことや、拡張八極子偏極で作られたドメイン壁が秒速10kmと超高速で動けることが分かった。このことは、Mn3Snを用いてメモリなどを作製すると、テラヘルツ領域の動作が可能になるという。
なお、今回の研究は東京大学物性研究所・トランススケール量子科学国際連携研究機構の三輪真嗣准教授と同研究所・同機構・東京大学大学院理学系研究科の中辻知教授および、同研究所の冨田崇弘特任助教、Ikhlas Muhammad大学院生、坂本祥哉助教、同研究科の肥後友也特任准教授、同研究所・同機構の大谷義近教授(理化学研究所 創発物性科学研究センター チームリーダー)、同大学大学院工学系研究科の野本拓也助教、有田亮太郎教授(理化学研究所 創発物性科学研究センター チームリーダー)、東北大学学際科学フロンティア研究所の飯浜賢志助教、同大学材料科学高等研究所の水上成美教授らが共同で行った。
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