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日本の半導体ブームは“偽物”、本気の再生には学校教育の改革が必要だ湯之上隆のナノフォーカス(39)(2/6 ページ)

今や永田町界隈は「半導体」の大合唱であるが、筆者はそれを「偽物のブーム」と冷めた目で見ている。もはや“戦後の焼け野原状態”である日本の半導体産業を本気で再生するには、筆者は学校教育の改革から必要だと考えている。

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日本の半導体ブームは偽物

 このように、政府、自民党の議連、衆議院、そして経産省が主導するTSMCの誘致など、永田町界隈は、「半導体、半導体、半導体」の大合唱である。そして、衆議院の意見陳述の際に、自分で確認したのだが、これらは何の関連性も無いのだそうだ。要するに、誰かがリーダーシップをとって、これらを動かしているわけではなく、てんでバラバラに、局地戦を行っているにすぎないのである。

 従って、降って湧いたような日本の半導体ブームを、筆者は、冷ややかな目で見ている。そして、東京五輪(が開催されるかどうかも分からないが)の前後に行われる衆議院の解散総選挙で、新内閣が組閣され、各種委員会がリセットされたら、「半導体? そういうこともあったようだね」と忘れ去られてしまうのではないか。要するに、日本の半導体ブームは偽物であると思う。

 特に、経産省が関わっているTSMC絡みの二つの案件、つくばの後工程の研究拠点と、ソニーとの合弁の新工場については、実現性が乏しいだけでなく、過去の歴史を顧みると、より事態を悪化させるのではないかと危惧している。

 本稿では、その根拠を論じる。その上で、本気で、日本半導体産業を再生させたいのなら、不都合な真実である「戦後の焼け野原のような状況」を直視し、小中高の教育改革を行うことから着手する必要があることを指摘する。日本には、もはや優秀な半導体技術者がいない。その技術者を育てなければ、再生はあり得ないのである。従って、真の改革には20〜30年の歳月を要する覚悟が、政治家、関係省庁、そして日本半導体産業の関係者には必要であるという結論を導く。

TSMCから見た日本とは

 図1に、TSMCの地域別売上高比率を示す。TSMCは、昨年2020年9月15日に、米国アリゾナ州に、ファンドリーの新工場を建設することに合意した。


図1:TSMCにおける地域別売上高比率(〜2021年Q1) 出典:TSMCのHistorical Operating Dataを基に筆者作成(クリックで拡大)

 TSMCにとって米国は、Apple、Qualcomm、Broadcom、AMDなどビッグカスタマーが多数存在する最重要地域である。2020年9月15日以降、米国の制裁により、中国Huaweiへの半導体の供給が停止されて以降、米国比率は90%前後にまで増大し、もはや米国無しではTSMCのビジネスが成り立たない。

 その米国に対してですら、アリゾナ州の新工場の建設に対して、「建設費は6倍、人件費は3割高い」と苦言を呈している(ニュースイッチ、2021年2月24日)。

 この問題を解決するべく、バイデン大統領が先頭に立って半導体強化策を掲げ、冒頭に記載したように補助金を計上するとともに、二つの法案を可決して、TSMCに対して、さらなる支援を行う姿勢を見せている。

 一方、日本はどうか? TSMCの日本の売上高比率は、2021年第1四半期で、たったの5.2%でしかない。この中に、ソニーのCMOSイメージセンサーの生産委託分とそれに張り合わせるロジック半導体の全数、加えてトヨタ自動車をはじめとする全てのクルマメーカー向け車載半導体が含まれている。

 常識的なCEOなら、たった5.2%しかビジネスが無い日本に、研究拠点や新工場をつくるはずがない。少なくとも、新工場の建設はあり得ない。TSMCにとって、何のメリットもないからだ。

 では、なぜ、TSMCが、つくばに後工程の研究拠点をつくる、などということになったのだろうか?(ただし、この件については、TSMCサイドの発表はないため、真偽の程は依然不明である)。

 以下では、筆者の推測を述べてみよう。

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