日本の半導体ブームは“偽物”、本気の再生には学校教育の改革が必要だ:湯之上隆のナノフォーカス(39)(3/6 ページ)
今や永田町界隈は「半導体」の大合唱であるが、筆者はそれを「偽物のブーム」と冷めた目で見ている。もはや“戦後の焼け野原状態”である日本の半導体産業を本気で再生するには、筆者は学校教育の改革から必要だと考えている。
2019年7月1日の「第2の真珠湾攻撃」
2019年6月末まで、大阪でG7サミットが開催されていた。日本は議長国として、「G7は、開かれた公正な世界貿易及び世界経済の安定にコミットする」ことを、安倍前総理が強調した。
そのサミットが終了した翌日の7月1日、日本政府(および経産省)が、韓国に対して、フッ化ポリイミド、EUV(極端紫外線)レジスト、フッ化水素(ガスではなく薬液)の半導体3材料の輸出規制を厳格化すると発表した。その結果、韓国政府、Samsung、SK Hynixは、大混乱に陥った。
この3材料の中でも、フッ化水素の影響は甚大で、もし、SamsungとSK Hynixの在庫が切れたら、メモリも非メモリも、先端もレガシーも、半導体は一個もつくれなくなる最悪の事態になったからだ。
この日本政府の政策は、半導体業界では、「第2の真珠湾攻撃」と言われた。そして、欧米など諸外国(台湾を含む)の半導体メーカーから、次のようなことを、直接的または間接的に聞いた。
「君たち日本政府は、まさか我々にも、こんなことをするんじゃないだろうな?」
つまり、日本政府(経産省)による韓国に対する突然の輸出規制強化は、韓国にとどまらず、世界中に恐怖を与えることになったのである。
そのような日本政府の省庁の一つの経産省が、TSMCに対して、しきりに国内誘致を持ち掛けてくる。この誘致を無下に断ったら、日本政府(経産省)が、何をするか分からないとTSMCは思っている可能性がある。
そこで、TSMCは、後工程の研究拠点をつくるくらいでお茶を濁し、日本政府(経産省)を怒らせないようにしよう、と考えたのではないか? もし、筆者の推測が正しければ、経産省による強引な国内誘致は、TSMCと日本との関係性を悪化させかねない。
「第2の真珠湾攻撃」のブーメラン効果
この「第2の真珠湾攻撃」のとばっちりを食ったのは、まずは、材料メーカーである。輸出規制強化の対象となった3材料をビジネスにしている企業は、韓国への輸出が困難を極めた。また、韓国が、国を挙げて日本依存を減らす大方針を打ち出し、実際に、フッ化水素を基幹ビジネスにしているステラケミファや森田化学は、大幅な売上減少に見舞われた。
今後、日本がボトルネックになっている他の半導体材料、製造装置、その装置の部品など、韓国が自国生産に成功したものから、日本を排除していくだろう。従って、日本政府の「第2の真珠湾攻撃」は、ブーメランのように日本に返ってきて、日本の装置、その部品、材料メーカーの業績を直撃し、低迷させることになる。
つまり、日本政府(経産省)の政策は、長期的には、日本の半導体関連企業の競争力を大きく削ぐことになるのである。全く迷惑なことをしてくれたものだ。
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