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東京大ら、核スピンを利用した熱発電を初めて実証絶対零度付近まで熱電変換が可能に

東京大学の吉川貴史助教らによる研究グループは、「核スピン」を利用した新たな熱発電を初めて実証した。電子に基づくこれまでの熱電変換は、室温以上の高温域に限られていた。核スピンを利用することで、絶対零度付近の極低温域まで熱電変換が可能になるという。

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核スピン自体が電気や電流の生成源として機能

 東京大学の吉川貴史助教らによる研究グループは2021年7月、「核スピン」を利用した新たな熱発電を初めて実証したと発表した。電子に基づくこれまでの熱電変換は、室温以上の高温域に限られていた。核スピンを利用することで、絶対零度付近の極低温域まで熱電変換が可能になるという。

 環境の温度差により電気を作り出す現象を利用した熱電変換デバイスは、排熱などから電気エネルギーを生み出すことができるため、次世代のクリーンエネルギーとして期待されている。ただ、物質中の電子を利用した従来の熱電変換デバイスは、環境温度が低温域になると電子の動きが凍結し、熱電変換の効率が劇的に低下するなど課題もあった。

 こうした中で研究グループは、物質中の原子核がもつ自転の性質である「核スピン」に注目した。核スピンは電子スピンに比べ、極めて低いエネルギーを持ち、絶対零度付近の低温域でも揺らぎ続けることが可能である。そこで今回、核スピンを動力源とした新しい熱電変換現象である「核スピンゼーベック効果」を実証することにした。


熱電変換現象とその高温域・超低温域における振る舞いの模式図 (クリックで拡大) 出典:東京大学他

 今回の研究では、大きな核スピン(I=5/2)を持つ55Mn原子核から構成される磁石材料「炭酸マンガン(MnCO3)」に着目した。極めて強い核スピンと電子スピンの相互作用によって、核スピン偏極率が増大するとともに、外部磁場によりスピン方向も制御することが可能になる。

 実験に用いた試料は、MnCO3に白金(Pt)を接合している。この試料に温度差を与えると、接合界面における55Mn核スピンとPtの伝導電子スピン間でコリンハ緩和が生じ、スピン流Jsが生成される。Pt層に流れ込んだスピン流は、スピン偏極方向σとスピン流が流れる方向Jsの両方に直交する向きの電圧に変換され、これを検出することに成功した。


核スピン、コリンハ緩和、核スピンゼーベック効果についての模式図 (クリックで拡大) 出典:東京大学他

 電圧信号の強度は0.1K(−273.05℃)まで増大し、14Tという強磁場域においても信号は抑制されないことが分かった。これは、極限環境下でも高いエントロピーを持つ核スピンならではの性質だという。また、観測した信号は、MnCO3/Pt界面における核スピンの緩和機構(コリンハ機構)を取り入れたスピン流理論によって、定量的に再現されることを示したものだという。


MnCO3/Pt接合試料における核スピンゼーベック効果の実験結果 (クリックで拡大) 出典:東京大学他

 今回の研究成果により、核スピン自体が電気や電流の生成源になることが明らかになった。また、今回見いだされた核スピンゼーベック効果は、4K以下の低温域で機能するパワーデバイスや熱センサー、冷却技術への応用が可能だという。

 今回の研究は、東京大学大学院工学系研究科の吉川貴史助教や東京大学大学院工学系研究科/東北大学材料科学高等研究所の齊藤英治教授らを中心とする研究グループと、東京大学大学院総合文化研究科の塩見雄毅准教授、東北大学材料科学高等研究所の高橋三郎学術研究員、岩手大学理工学部物理・材料理工学科の大柳洸一助教らが共同で行った。

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