東京大学ら、FeAs-InAs単結晶超格子構造を作製:超格子構造全体が強磁性状態に
東京大学らの研究グループは、InAs半導体結晶中のほぼ1原子層の平面にFe原子を配列した「FeAs-InAs単結晶超格子構造」を作製することに成功し、さまざまな新しい物性を観測したと発表した。
低温分子線エピタキシー結晶成長法で実現
東京大学らの研究グループは2021年7月、InAs(インジウムヒ素)半導体結晶中のほぼ1原子層の平面にFe(鉄)原子を配列した「FeAs-InAs単結晶超格子構造」を作製することに成功し、さまざまな新しい物性を観測したと発表した。
InAsは高速トランジスタや長波長光デバイスに用いられる半導体である。この中に、「高温超伝導」や「高温強磁性」といった特性を持つFe-As正四面体結合を、高密度に配列させる研究が進められている。Fe-As正四面体結合が平面内に配列し積層された材料は、Fe原子同士のスピンが反平行方向に結合し、高温で超伝導状態を示すことなどが知られている。しかし、Feは固溶度が低く相分離してしまうため、作製することは極めて難しかったという。
研究グループではこれまで、InAs結晶中にFe-As正四面体結合を3次元的にランダム分布させると、電子キャリアとの相互作用によって、強磁性状態が既存の理論予測以上の高い温度で発現することを示してきた。
研究グループは今回、低温分子線エピタキシー結晶成長法を用い、InAsの閃亜鉛鉱型結晶構造を保ちながら、全てのFe原子を中心位置から1.5原子層の幅で分布させることに初めて成功した。この技術により、FeAs原子層をInAs結晶中に等間隔に埋め込む構造を実現し、単結晶FeAs-InAs超格子構造の作製に成功したという。
実験ではさまざまな超格子構造を作製しその特性を評価した。この結果、FeAs原子層の層間距離(InAsの膜厚tInAs)が20原子層以下になると、超格子構造全体が強磁性状態となり、全てのFe原子が最大に近い5ボーア磁子(5μB)という大きな磁気モーメントを持つことが分かった。
また、FeAs原子層の間隔を短くすると、強磁性転移温度(キュリー温度TC)がtInAsの3乗に反比例して急激に増大することや、超格子構造の電気抵抗が外部磁場によって500%も変化する巨大磁気抵抗効果が発現すること、その磁気抵抗効果をゲート電圧で制御できること、などが明らかになった。
今回の成果は、東京大学大学院工学系研究科のLe Duc Anh助教、小林正起准教授、吉田博特任研究員(上席研究員)、田中雅明教授のグループと、岩佐義宏教授グループ、東京大学物性研究所の福島鉄也特任准教授、東北大学電気通信研究所の新屋ひかり助教らが行った共同研究によるものである。
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