“手作りのラズパイ教室”に見るプログラミング教育の縮図:踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(14)STEM教育(2)(4/8 ページ)
今回は、“手作りのラスパイ教室”を運営するお母さんたちへのインタビューから、プログラミング教育について考えてみます。赤裸々に語っていただいた本音から見えてきたのは、「新しいプログラミング教育の形」でした。
「パイ・テック・クラブ」へのちょっと意地悪な質問
さて、ここから、江端の(悪意を込めた)パイ・テック・クラブへの「ダークサイド」向けの質問の話に移ります ―― 『パイ・テック・クラブ、すごいぞ、偉いぞ、立派だぞ』という「ライトサイド」の記事をご希望の方は、ちょっとググって頂ければ、すぐに出てきます(EE Times Japanの記事も含みますが)ので、そちらに移動してください。
以下に、頂いたご回答の概要を記載していきます。
「A.運営方針」については既に述べましたので省略させて頂くとして、「B.受講者」について、私は興味がありました ―― 一体"誰が"パイ・テック・クラブへの入会を決定するのか、です。
もちろん、最終決定権は、スポンサーである"親"にあるのは当然ですが、私が伺いたかったのは「"親"と"子ども"、『入りたい』と言い出すのはどちらだ?」でした。なぜなら、"親"も"子ども"も、「ラズパイ」とか言われても、何のことやら分からないだろうと思うからです。
結論から言えば、「パイ・テック・クラブのうわさを聞いたお母さん」が話を持ち込む形で始まることが多いようです(もちろん、子どもから話を持ち出すこともあるようです)。
そして、この"親"の入会へのモチベーションは、「子どもの可能性を見いだすアプローチの一つ」――つまり「きっかけ作り」でした。これは、他の習い事(水泳、英会話、そろばん、サッカーなど)と基本的には同じだと言えます。「子どもに、ITベンチャーを起業してもらって、セレブな老後を送りたい」という意見は、(残念ながら)ないようでした(まあ、仮にあったとしても、そんなギラギラした欲望は、口には出せないでしょうが)。
「C.教材」についてですが、基本的には、教材用のアプリケーションを加えた"ラズパイ用のイメージファイル"を作って、そのイメージファイルを含むSDカードをコピーして、生徒のラズパイでも使えるようにする、というものです。
これは、ラズパイを使ったことがない人に説明するのが難しいのですが、"SDカード"を、"ハードディスク"と読み替えてもらえれば理解しやすいかもしれません。ただし、講師を担当しているお母さんは、こういうことを完璧に理解している、ということを覚えておいてください。この他、説明用資料(教材)もお母さんたちの手作りです。
設定しているゴールは、ざっくり3つ、「Scratchを使った簡易なゲームの作成」「LEDの点滅プログラム」「ロボットカーの操縦プログラム」です。これは、私のようなITエンジニアでも、そこそこ高いゴール設定です*)。
*)ちなみに私たち研究員の中でも、ラズパイを『使い倒している』人間は少ないです。例えば以前、『使っていないラズパイを江端に貸してくれ』とメールでアナウンスしたら、翌日、4台集まりました。
そして、前述した通り、パイ・テック・クラブでは、「ラズパイにインストールしたアプリを使う」のであって、ラズパイのシステム構築をする訳ではない、ということが非常に重要なポイントです。
最後に、「D.授業の進め方」についてですが、私、インタビューの前から、『落ちこぼれる生徒は、必ず発生する』と確信していました。ところが、伺ってみると、この問題に対しては、逆の発想で対応されていることが分かりました。つまり『ゴールの方を変更してしまう』のです。
「キーボードで日本語ローマ字入力ができるようになれば、それは十分な成果じゃないですか?」と逆に聞き返された時、私の頭の中に思い浮んだのは、私のブログの内容でした*)。
*1)「・・・ おい政治家ども、お前ら、国民舐めとんのか?」
*2)『パソコン程度の機械を扱えない大臣に、"有能"とか"努力家"という言葉は似合わない』
私は、「おっしゃる通りです」と、返事せざるを得ませんでした。
次に興味があったのは、「子どもたちが楽しんでいるか?」です。どんな勉学であれ、それを楽しむことができるのであれば、もう、その目的は達成したもの同然です ―― しかし、これが難しい。
まあ例えるなら『数学の公式を理解して、大爆笑した』とか『化学の実験の反応を見て、感動して泣いた』とかいう話を、私は、これまで一度も聞いたことがないのです。『プログラミング教育』は未知の分野であり、その辺が私には、全く分からなかったのです。
「『興味を持てない子が、一人もいなかった』とまでは言えませんね」「この教室を、『安価な学童保育』のように考えている保護者もいたとは思います」とも、おっしゃっていました ―― 正直、その話を聞いた時、私もイラっとしました。
「ただ、子どもたちはおおむね楽しんでいるようです。面白いのは、Scratchのプログラミングには全く興味を示ささなかった子どもが、ロボットカーでは真剣に取り組むようになるなど、子どもによって、立ち上がるフラグがバラバラであった、という点です」
このパイ・テック・クラブの売りの一つは「リアルにモノを動かしてみる」という点にあります。ここが、これまでの子ども向けのコンピュータ教育と、決定的に違う点でもあります。
従来の、子ども向けプログラム教室は、箱(パソコン)の中で動いて、それで「おしまい」となっていました。そんなものが楽しいものになる訳がない。比して、「自分の思い通りにモノ動かす」という感動は大きいと思う ―― 多分。
しかし、嫁さんは、「朝顔を育てること」も、「ヘチマを栽培すること」も、「酸素を発生させることも」、何が楽しいのか全く分からなかったと言っています*)。一方、自分の部屋で水素の爆発実験までしていた私にとって、全く分からないのは「嫁さん」の方です。
*)『リトマス紙が何色になろうと、それが何だというの』という名言を残したのが、私の嫁さんです。
「パイ・テック・クラブの活動によって、子どもはプログラミングに興味を持つようになりますか?」とお伺いしたところ、『さあ、どうでしょう?』と言われました。『取りあえず、一度やってみることが大事ですからね』という、至極真っ当なことを言われました。
ただ、自宅にラズパイを持ち帰って、プログラムやLEDの点滅を見せて、親に自慢していた子どもがいたそうです。「自宅で、親に、学んだことを"プレゼンテーション"することができる」ことは、非常に貴重な体験であると思います。
あと、生徒の男女比は7:3くらいだそうで、男女で興味の持ち方の差異は見られなかったそうです。ここから、私たちの間で議論が発展しました。それは ―― 子どもたちの理系/文系の格差を作り出しているのは、実は"親"ではないか、という仮説です。
ITリテラシーに乏しい親が、自分の子どものITリテラシーをつぶしている
前述した通り、このパイ・テック・クラブの活動にたどり着くためには、"親"という関門を突破しないと始まりません。「女の子だから、コンピュータは苦手だろう」と思っている親は、間違いなく「コンピュータが苦手な女の子」を製造している訳です。同じように、「コンピュータ? そんな難しいものが、この俺の息子に扱えるか?」と決めつけている"親"も同じです。
つまり、ITリテラシーに乏しい親が、自分の子どものITリテラシーをつぶしている、ということです。
まあ、もっとも、これについては、親だけを責めるのは酷かもしれません。なぜなら、PCの出現から40年経過した、現在にあっても、全ての国民がPCを取り扱えるとは言えませんし、現場の教師はもとより、特に高齢の政治家、会社経営者、町内会の幹部のITリテラシーの低さは目を覆うばかりですから(関連記事:「デジタル時代の敬老精神 〜シニア活用の心構えとは」)。
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