産総研ら、SiCウエハーの高速研磨技術を開発:鏡面研磨の速度を従来の12倍に
産業技術総合研究所(産総研)は、パワー半導体用大口径SiC(炭化ケイ素)ウエハーの高速研磨技術を、ミズホや不二越機械工業と共同開発した。従来に比べ鏡面研磨を12倍の速度で行えるため、加工時間を大幅に短縮することが可能となる。
加工プロセスの高速化とコスト節減を両立
産業技術総合研究所(産総研)先進パワーエレクトロニクス研究センターウエハープロセスチームの加藤智久研究チーム長らは2021年8月、パワー半導体用大口径SiC(炭化ケイ素)ウエハーの高速研磨技術を、ミズホや不二越機械工業と共同開発したと発表した。従来に比べ鏡面研磨を12倍の速度で行えるため、加工時間を大幅に短縮することが可能となる。
大電力を制御する発電・送電システムや産業用ロボット、自動車、鉄道、情報通信機器などの用途では、SiCパワー半導体素子の採用が進んでいる。シリコンウエハーを用いたパワー半導体に比べ、同等のオン抵抗で耐圧が1桁大きく、高温での動作も可能なためだ。このため、SiCウエハーの需要も拡大しているが、コスト削減に向けては、研磨速度の高速化など量産性の改善が求められているという。
半導体製造工程では、ウエハー基板の薄型化や表面を平たんにするため、研削加工や研磨加工が必要となる。高硬脆材料であるSiCウエハーの研磨はこれまで、ダイヤモンドスラリーを用いても、遠心力でスラリーが切れたり、摩擦熱が生じたりして研磨速度を上げることができなかった。このため、鏡面化工程(表面粗さRa=1nm程度)までは研削による枚葉式加工を行っているが、生産性は良くなかったという。
そこで今回、ダイヤモンド砥石を定盤に成型した固定砥粒定盤をミズホが作製し、不二越機械工業製の高速高圧研磨装置と組み合わせることで、研磨工程の高速化に取り組んだ。実験は民活型オープンイノベーション共同研究体つくばパワーエレクトロニクスコンステレーション(TPEC)で行った。
実験では、SiCウエハーの研磨をさまざまな条件で行い、その研磨速度を比較した。この結果、固定砥粒定盤を用いると、700rpmにおいても定盤回転数と研磨速度が比例することを確認した。スラリーを用いた代表的な加工条件(荷重200g/cm2、回転数50rpm)と比べ、約12倍の研磨速度となる。研磨したSiCウエハーのRaは約0.5nmで、従来の鏡面研削加工と同等の表面品質を実現した。なお、金属定盤とスラリーを用いた加工だと、定盤回転数が200rpm超で限界となった。
開発した高速研磨技術では、加工液として用いるのは水だけである。スラリーを用いる他の研磨とは異なり、環境負荷が極めて少ない。水の供給量を制御し定盤を冷却しながら研磨能率を確保できるのもメリットだという。
また、定盤による研磨は加工圧力と定盤回転数で加工速度を制御するため、複数枚のSiCウエハーを同時に処理するバッチ式加工が可能である。これによって、加工プロセスの高速化とコスト節減を両立させることができるという。
産総研らは今後、開発した高速研磨技術を、6インチ対応SiCウエハーの一貫加工工程に導入し、SiCパワー半導体素子の開発に応用することで技術実証を行う予定。
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