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RISC-Vチップレット新興企業Ventanaが3800万米ドル調達データセンター向けコンピュータをターゲットに

米国カリフォルニア州クパチーノに本社を置くRISC-V関連の新興企業であるVentana Micro Systemsが3800万米ドルの資金調達を発表し、データセンター向けコンピュータをターゲットにしたマルチコアSoC(System on Chip)チップレットの詳細を明らかにした。

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 米国カリフォルニア州クパチーノに本社を置くRISC-V関連の新興企業であるVentana Micro Systems(以下、Ventana)が3800万米ドルの資金調達を発表し、データセンター向けコンピュータをターゲットにしたマルチコアSoC(System on Chip)チップレットの詳細を明らかにした。

 2018年に設立されたVentanaは、拡張可能な命令セット能力を備えたRISC-VベースのCPUをマルチコアチップレットの形で提供している。また、同社はカスタマイズ可能なSoCも提供しており、ハイパースケーラーがこれを導入すると独自の製品設計で有利なスタートを切ることができ、数年かけて独自のカスタムプロセッサを開発することはなくなるという。

 Ventanaは、「同チップレットはクラウド、エンタープライズデータセンター、5G(第5世代移動通信)、エッジコンピューティング、自動車アプリケーション向けに最適化されたクラス最高の単一スレッド性能を実現するよう開発された」と述べた。これは、さまざまな工場やプロセスノード間で移植しやすい設計を可能にする、マイクロアーキテクチャにおけるイノベーションの成果だという。


Ventana Micro Systems創設者の1人でCEO(最高経営責任者)のBalaji Baktha氏

 報道発表資料の内容だけでは非現実的なように思えたので、米国EE TimesはVentanaの創設者の1人であるBalaji Baktha氏にインタビューし、その背景を探った。その結果、同社の取り組みが単なるRISC-V関連のプロジェクト以上のものであることが分かった。

 Baktha氏と共同創設者のGreg Favor氏はいずれも、データセンター、CPUアーキテクチャ、ネットワークプロセッサで大きな実績を持つ。Baktha氏はMarvell、Adaptec、Veloce Technologiesといった企業において、複数世代のデータセンターの開発に携わったことを強調。一方、Favor氏はAMD、Ampere、Sierra Systems、Montalvoでの重要な役割を通じて、サーバクラスのx86系CPU、64ビットのArmベースCPU、ネットワークプロセッサなどの開発に携わってきた。

 Baktha氏は「われわれは長年にわたりハイパースケーラーについて多くを学んできたため、当社のチームはこの領域を手掛ける競合をしのぐ能力を有している。当社のコアチームでは、20年以上にわたりAMDやVeloce Technologiesといった企業に在籍し、既存のアーキテクチャの限界を目にしてきたメンバーが多い。そのため、創業時のビジョンも『データセンター級のスタンドアロン型プロセッサを実現する』という明確なものだった」と語った。

RISC-Vアーキテクチャとチップレットの組み合わせ

 Baktha氏は「コンピュータ消費の半分近くは、汎用プロセッサから、インフラ向けやドメイン特化型アクセラレーターへと移行している。Ventanaは、拡張可能な高性能RISC-Vコアとチップセットをベースにした迅速な製品化のアプローチによって、こうしたトレンドから利益を得られるポジションにいる」と述べた。

 独自の実績以外にもVentanaには後ろ盾がある。同社の新たなアプローチが「革新的になり得る」と確信する著名な投資家たちだ。今回のシリーズBの投資ラウンドは、Marvellの創設者であるSehat Sutardja氏とWeili Daiits氏によって主導され、現在までの総投資額は5300万米ドルに及ぶ。他にも半導体業界の投資家がいるようだが、名前は明らかにされていない(ただし、米国証券取引委員会への提出書類では、システムアーキテクチャの強力なバックグラウンドを持つCisco Systems(以下、Cisco)やMIPSの重役らが名を連ねている)。

 Sutardja氏は、「Ventanaの高性能ソリューションは、われわれが知っているシリコン設計を再構築する可能性を秘めており、企業が記録的な速さで、大規模な予算なしに超強力なソリューションを開発することを可能にする。このアプローチは、データセンター、5G、自動車、エンタープライズ、クライアントコンピューティングなど、いくつかの成長市場において革新的なものになると信じている」と述べている。

 Ventanaがステルスモード(製品や開発の中身を明らかにしないこと)で行っていた作業の一部は、主要企業と協力して自社のソリューションを検証することだったが、このプロセスにおいてCiscoは重要なパートナーだったという。Baktha氏は、「これらの企業はわれわれのアーキテクチャを採用して検証した。Ciscoの協力によって、シリーズAで1500万米ドルの資金調達ができた」と語った。Ciscoのコモンハードウェアグループでエグゼクティブバイスプレジデントを務めるEyal Dagan氏は、「Ventanaは、“高性能でカスタマイズ可能な、セキュアなプロセッサソリューション”という市場のニーズに応える、革新的なRISC-Vアーキテクチャを開発した」述べている。

 The Linley Groupの主席アナリストであるLinley Gwennap氏も、チップレット戦略は次のステップとして適切であると考えている。同氏は、「『ムーアの法則』が鈍化する中、業界は、チップの各機能に適切なプロセスノードを使用することでコストを最適化するチップレットベースの設計へと移行している。Ventanaのチップレット戦略は、オープンソースのRISC-Vアーキテクチャの採用を促進しながら、この新しいアプローチを幅広い顧客やパートナーに展開することを可能にする」と語っている。


Ventanaのチップレットアーキテクチャの例 出典:Ventana Micro Systems

 Ventanaは、「モジュール化された拡張可能なチップレットベースの製品戦略によって、従来のIP(Intellectual Property)モデルに比べ開発期間とコストを大幅に削減することができる」としている。同社のチップレットは、最先端のプロセスノードを活用することで性能を最大限に発揮するが、顧客は独自のSoCチップレットを、ターゲットアプリケーションに適したプロセスノードで実装することができる。相互運用性を確保するために、Ventanaは超低遅延、高帯域、低消費電力を実現するパラレルダイ間通信(D2D/Die to Die)ソリューションを提供する。このD2Dソリューションは、OCP(Open Compute Project)の物理インタフェース規格であるODSA(Open Domain-Specific Architecture)に準拠している。

 Baktha氏は、「このチップレットIPと標準規格に準拠したSoCの接続性を提供することで、サーバ分離を実現する。これは、コンピューティングとメモリが独立して拡張できる場合にのみ可能となる。キャッシュコヒーレンシを実現したアクセラレーターは初めてだ」と述べている。Ventanaのチップレットアプローチによって、ハイパースケーラーは、一般的なIPモデルと比較してコストを約2000万米ドル削減し、開発期間を約2年間短縮できるとする。Ventanaは既に主要なハイパースケーラーと協力している。チップのテープアウトは2022年になる見込みだ。

【翻訳:青山麻由子、編集:EE Times Japan】

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