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市場急拡大の反動、「メモリ大不況」はいつやってくる?湯之上隆のナノフォーカス(42)(5/6 ページ)

続々と巨額の投資が発表される半導体業界。現状は半導体不足が続いているが、どこかで供給が需要を追い越し、そのあとには半導体価格の大暴落と、それに続く半導体の大不況が待ち構えているとしか考えられない

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NANDのSpot価格の推移

 ついでに、NANDについてもSpot価格とContract価格の分析を行ってみよう(ただし、最初から言っておくが、かなり結果は悩ましい)。まずは、2020年12月31日から2021年9月17日における各種NANDのSpot価格の推移を図12に示す。ここで、SLCはSingle Level Cell、MLCはMulti Level Cell、TLCはTriple Level Cellの略で、それぞれ、一つのメモリセルに、1ビット、2ビット、3ビットを書き込むことができるNANDである。また、3D TLCというのは、3次元NANDの意味であり、3DがついていないNANDはすべて2次元NANDである。


図12:各種NANDのSpot価格(2020年12月31日〜2021年9月17日)[クリックで拡大] 出所:DRAMeXchangeのデータを基に筆者作成

 あらためて図12を見てみると、3D TLC 1T(1テラバイト)が最も高額であり、SLC 1GおよびSLC 2Gが最も安価であることが分かるが、それ以外の規則性が見て取れない。

 そこで、DRAMの場合と同じように、2020年12月31日の価格を「1」と規格化したときの各種NANDの価格推移を見てみた(図13)。この図を解釈するのは、かなり難しい。まず、全体的に言えることは、DRAMのSpot価格にように2倍に高騰しているNANDは無いということである。最も高騰しているSLC_2Gでも1.2〜1.27倍程度である。


図13:2020年末で規格化した各種NANDのSpot価格(〜2021年9月17日)[クリックで拡大] 出所:DRAMeXchangeのデータを基に筆者作成

 その他、MLC_128GとMLC_256Gが、ほぼ直線的に価格が増大していることが分かる。また、SLC_16Gが8月下旬から突然高騰している。その一方で、SLC_8Gが4月中旬以降、「1」以下になり、0.93まで値下がりを続けている。

 ではなぜ、上記のNANDがこのような挙動を示すのだろうか? 明快に答えることができないのだが、例えば、SLC_2GとSLC_1Gの価格が比較的上昇している。SLCで低集積度ということから、例えばクルマ用など、信頼性の要求は高いがそれほど集積度は問わない用途が思い浮かぶ(ただし、あまり確証はない)。

NANDのContract価格の推移

 次に、2020年12月から2021年8月までの各種NANDのContract価格の推移を見てみよう(図14)。最も価格が高いのはSLC_32Gで、その次がSLC_16Gである。3番目にやっとMLC_128Gが出てくる。ここから、NANDでは、集積度が高いほど価格が高いというわけではないことが分かる。


図14:各種NANDのContract価格(2020年12月〜2021年8月)[クリックで拡大] 出所:DRAMeXchangeのデータを基に筆者作成

 同じ集積度の32Gなら、MLCが約3米ドルであるのに対して、SLCが4倍以上の12.55米ドルもする。つまり、クルマや高性能コンピュータなど、信頼性要求が厳しい製品については、MLCではなくSLCが使われているのかもしれない。

 NANDメーカーは、TLCの先のQuad Level Cell(4ビットセル)やPenta Level Cell(5ビットセル)を開発しているが、これら多ビットセルはどんな用途にも使えるというわけではなさそうだ。

 さて、2020年12月のContract価格を「1」と規格化して、各種NAND価格の推移を見てみた(図15)。すると、全てのNANDは2021年3月〜4月にかけて価格が1.06〜1.1倍に上昇し、さらに6月から7月にかけて再び1.5〜1.18倍に上昇していることが分かった。


図15:2020年末で規格化した各種NANDのContract価格(〜2021年8月)[クリックで拡大] 出所:DRAMeXchangeのデータを基に筆者作成

 そして、2021年8月時点で、価格上昇の大きい方から、MLC_32G、MLC_128G、MLC_64Gとなっているが、その次がSLC_1Gになっていることに頭が混乱する。確かにSpot価格でもSLC_1Gは価格上昇が大きい部類に入っているが、8月中旬まで最もSpot価格が上昇していたSLC_2Gが、Contract価格では最も価格が上昇していないのである。

 ここまでをまとめると、NANDでは、Spot価格もContract価格も、DRAMほど大きな価格高騰は起きていない。また、メモリセルの多値化や集積度とNAND価格の間に相関関係を見つけるのが難しい。ちなみに、現在生産されているNANDは、256Gに代わって512G以上の集積度のものが主流になりつつあると言える(図16)。


図16:集積度別のNANDの月次出荷個数(1991年1月〜2021年6月)[クリックで拡大] 出所:DRAMeXchangeのデータを基に筆者作成

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