光トランシーバーのForm Factorの新動向(7) 〜CPOの最新動向:光伝送技術を知る(18) 光トランシーバー徹底解説(12)(3/3 ページ)
次世代光インタフェースモジュールとして注目を集めているCo-packaged Optics (CPO)について解説する。CPOはOptical Internetworking Forum(OIF)に舞台を移し議論されている。
CPOと新しいデータセンターの動向
2000年代は、10Gによりデータセンターの光化が一気に進んだ。2010年代は波長多重技術を利用した40/100G CWDM4により、Clos光ネットワークを構築したハイパースケールデータセンターが誕生した。2020年代は何が起こるだろうか。CPOはそれを実現するツールとなるのであろうか。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、WorkshopやWebinar/Webcastが多くなったが、その中でAI(人工知能)やAI Training、Machine Learning(ML)に関する議論も活発化していると感じる。さまざまな分野で巨大なAIの応用が実用化され、GoogleのTPU(Tensor Processing Unit)やTeslaのスーパーコンピュータ「Dojo」などの発表を見ると、技術はもちろんのこと、実用化に突き進む力に圧倒される。データセンターではこの巨大AIやAI Trainingの実現が求められているという。
NTTグループの「IOWN(アイオン)*)」で提案されているような、将来の社会インフラ系のデジタルツインを実現しようとすると、膨大なデータと計算能力が必要になる。自動運転車に加え、サイバー空間上の道路を共有することで安全安心な自動運転が完結する。それを実現するために必要な交通監視カメラや自動車が生成する情報量は膨大である。
*)編集注:NTTグループが提案する、現在のインターネットだけでは実現できない新たな世界を実現する構想。
また、産業応用ではIndustrie 4.0のように、サイバー空間の工場とリアルな工場を実時間で対応させながら製造を行うことで、無理や無駄を極限まで低減しようとしている。機械(ロボット)の仮想化やディスアグリゲーション(Disaggregation)を組み合わせることで、CAPEXとOPEXを低減できるだけでなく、市場要求に合わせた柔軟な生産計画が立てられ、開発から製造へのサイクルも短縮できる。
次に光市場が注目するのは、デジタルツインを実現するデータセンターであり、特にAIやAI Training応用であろう。この分野で使える光モジュールはどういうものだろうか。そこに次世代の光モジュールビジネスが開かれるチャンスがある。
2021年6月に開催されたOFCのWorkshopでは、MicrosoftのBrad Booth氏がAI/MLとResource Disaggregationがネットワークの多様性を引き起こすと述べた。
まずHigh Radix Switch Networkに触れ、Port Speed 100GのRadix 512のスイッチを用い、2層のLow Latency Clos Networkにより10万台のサーバをNon Blockで接続するという。この場合TORを削除しLeafから直接光でサーバに接続するとしている。Radix 128程度ではスイッチは3層必要で、TORのOversubscriptionを1:1にするという考え方の方が現実的であるが、Radix 512となると構成が変わる。より集積化した光技術が重要となる。
続いてDisaggregated Systemを紹介している。xPU、FPGA、メモリ、SCM(ストレージクラスメモリ)などのリソースをプールし、アプリケーションの必要に応じて割り当てを行い、無駄を極限まで低減し、仮想化をチップレベルに近づけようとするのである。実際にはアクセラレーターやDIMM(Dual Inline Memory Module)の仮想化であろう。
この応用の議論が他のWorkshopでもあったが、2019年に策定された「PCIe(PCI Express) 5.0」を想定している。32Gbit/s(規格では32GTs) per laneで、16 laneで64GB/sとなる。100G Ethernetの25Gbit/s per laneに近く、多レーン(lane)が得意なシリコンフォトニクスやVCSELで実現できる規格である(ただし、敵は電線である)。次世代のPCIe 6.0では、64Gbit/s (64GTs)となり、光技術の適用範囲を広げてくれると期待している。
図5は、OFC2021の「Data Center Summit(DSC)」におけるMicrosoftの発表を基に、何枚かのスライドを参考に作成したものである。図上部のHigh Radix (512) Clos Networkと下部のDisaggregated Systemをどう接続するのか、物理的な構成、構造やファイバー配線など興味がある。
このように新しい要求が生まれていることは確かなので、新しい光技術の動向に注目していきたい。私の経験から、CPOにはソケットは適していないと考えており、CPOのOBO版ともいえるNear Package Optics(NPO)の実用化に期待している。最終原稿チェックで入ってきたニュースによればOIFがNPO向けのXSR+の規格化に着手したということであり、追い風が吹き始めたと感じる。
かつて、300-pin MSAやMini/Micro Pod、SNAPなど異なるピン数で多く使用されたMEG Arrayのような標準ソケットが必要だろう。OAM(OCP Accelerator Modul)で議論されているアクセラレーターに使用される高密度ソケットなどを応用できないかと考える。
NPOは、FP Pluggableと全く同じ土俵に乗ることはないと考えている。しかし、いくつかの新しい要求がある。Bandwidth density、Energy Efficiency(EE)とLow Latency(LL)である。Reliabilityで議論が止まる場面もあるが、IBMのスーパーコンピュータの試作やGoogleのデータセンターネットワーク「Jupiter」を見ても、2重化やClos構造導入によるRedundancy(冗長性)を組んでいる。2121年3月のOIDA WorkshopでのNVIDIAのLarry Dennison氏による講演でも、”10-100FIT@5 years for all optical components within field replaceable unit”という言葉も出ている。IBMの言うように、FIT数でのクラス分けも一つの案である。
いずれにしろ、先の講演でDennison氏が述べていたように、システムレベルでおこるさまざまなトレードオフを議論して、最速で光技術をものにしてほしいと希望する。それにより、FP Pluggableに加えてNPOやCPOなどの新しい市場が開かれることを期待している。
筆者プロフィール
高井 厚志(たかい あつし)
30年以上にわたり、さまざまな光伝送デバイス・モジュールの研究開発などに携わる。光通信分野において、研究、設計、開発、製造、マーケティング、事業戦略に従事した他、事業部長やCTO(最高技術責任者)にも就任。多くの経験とスキルを積み重ねてきた。
日立製作所から米Opnext(オプネクスト)に異動。さらに、Opnextと米Oclaro(オクラロ)の買収合併により、Oclaroに移る。Opnext/Oclaro時代はシリコンバレーに駐在し、エキサイティングな毎日を楽しんだ。
さらに、その時々の日米欧中の先端企業と協働および共創で、新製品の開発や新市場の開拓を行ってきた。関連分野のさまざまな学会や標準化にも幅広く貢献。現在はコンサルタントとして活動中である。
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