Xilinx、アクセラレーター「Alveo U55C」を発表:HPCやビッグデータアプリに特化
Xilinxは、HPCやビッグデータワークロードの用途で、優れたワット当たりの性能を可能にするアクセラレーターカード「Alveo U55C」を発表した。同時に発表したAPI駆動型クラスタリングソリューションを活用することで、FPGAの大規模運用が容易に可能となる。
FPGAの大規模運用が可能なAPI駆動型クラスタリングソリューション
Xilinxは2021年11月15日(米国時間)、HPCやビッグデータワークロードの用途で、優れたワット当たりの性能を可能にするアクセラレーターカード「Alveo U55C」を発表した。同時に発表したAPI駆動型クラスタリングソリューションを活用することで、FPGAの大規模運用が容易に可能となる。
Alveo U55Cは、「データパイプラインのさらなる並列化」や「カスタム化されたメモリ管理」「パイプライン全体で最適化されたデータ移動」を実現している。XilinxでデータセンターグループHPCプロダクトマネジャーを務めるNathan Chang氏によれば、「これらの全てが、ワット当たりの性能向上につながっている」という。
Alveo U55Cはシングルスロット、FHHL(フルハイト、ハーフレングス)である。パッケージを小型化したことで、従来の「Alveo U280」では1個しか実装できなかったPCIeスロットのスペースに、Alveo U55Cは2個まで実装することができ、同一スペースでコンピュータ性能を2倍にできるという。最大消費電力は150Wに抑えた。
演算密度も向上した。HBM2容量は16Gバイトである。Alveo U280に比べ2倍に増えた。さらに実装スペースが半分となりAlveo U55Cを2個挿入することができるため、同一スペースで容量は4倍となる。
さらに、200Gbpsの帯域幅に加え、RoCE v2とDCB(Data Center Bridging)を利用したAPI駆動型クラスタリングソリューションを活用すれば、InfiniBandネットワークに匹敵する性能と、カーネル間の遅延時間が「マイクロ秒」というAlveoネットワークを構築できるという。
Xilinxは、ハードウェアと同様に統合ソフトウェアプラットフォーム「Vitis」やツールフローに対しても大規模な投資を行い、機能面で進化させてきた。主な深層学習フレームワークである「Pytorch」や「TensorFlow」の他、「C」や「C++」「Python」など高レベルのプログラミング言語もサポートしている。このためソフトウェア開発者は、これらの開発環境を活用し、既存のデータセンター内で主なHPCワークロードを高速化することが容易に可能となった。
Chang氏は、HPCカスタマーにおけるAlveo U55Cの応用事例も紹介した。例えば、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)は、世界最大級の電波望遠鏡「Square Kilometer Array(SKA)」の信号処理に、420個のAlveoU55Cを用いている。13万1000個のアンテナで構成されるアレイからのデータを集約し、フィルタリングなどの大規模演算をリアルタイムで実行する。太陽電池などを用いる電源環境で、カード当たりの消費電力が90Wという点も高く評価されたという。
自動車メーカーが行う「クルマの衝突シミュレーション」でも、Alveo U55Cは威力を発揮する。Ansys製ソフトウェア「LS-DYNA」を用いたシミュレーションでは、多数のAlveo U55Cを用いスケールアウトした。これにより、計算負荷の90%を占める静的陰解法FEMソルバーを大幅に高速化。x86 CPUを用いた場合に比べ5倍以上も処理性能が向上するという。
TigerGraphは、複数のAlveo U55Cを用い、グラフベースのレコメンデーションおよびクラスタリングエンジンを駆動する2つの主要アルゴリズムのクラスター化と高速化を行った。Chang氏は、「患者への推奨ケアパス」や「銀行における不正検出」などの事例を挙げ、Alveo U55Cの導入効果を紹介。これによると、レコメンデーションエンジンのクエリー時間と予測が、従来の「分単位」から「ミリ秒単位」に短縮。しかも、スコア品質は最大35%も向上、誤検知は1桁台前半にまで低下したという。
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