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「半導体不足」は本当か? クルマ大減産の怪湯之上隆のナノフォーカス(44)(3/3 ページ)

筆者は4月21日に、『半導体不足は「ジャストインタイム」が生んだ弊害、TSMCが急所を握る自動運転車』を寄稿し、その記事の中で、なぜ車載半導体不足が生じたかを分析した。しかしどうも、現在起きている現象は、それとは異なるように感じる。そこで本稿では、再度、クルマがつくれない原因を半導体の視点から考察する。

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全ての半導体が大増産されている

 世間では連日、「半導体不足」に関するニュースが報道されている。筆者にも、ほぼ毎日、テレビ、新聞、雑誌社などから、「なぜ半導体が不足しているのか?」という取材依頼がやってくる。

 しかし、諸般の事情からほとんどの取材はお断りしている。その第1の理由は、開口一番、「半導体って、一体何ですか?」と聞いてくるからだ。その位は勉強してから取材に来て欲しいと思う。

 第2の理由は(こちらが本質的であるが)、その理由が良く分からないことにある。というより、クルマ用で見たように、半導体が不足しているとは思えないのである。

 図5に、四半期毎の世界半導体出荷額と出荷個数の推移を示す。2018年第3四半期(Q3)にメモリバブルのピークがある。その後、半導体業界は不況に突入した。そしてコロナ騒動が起きたわけだが、半導体出荷額も出荷個数も2020年Q2以降に急拡大し、2021年Q3にはメモリバブルのピークをはるかに上回る過去最高の1448億米ドルおよび2942億個を記録した。


図5:四半期ごとの世界半導体出荷額と出荷個数(〜2021年Q3)[クリックで拡大] 出所:WSTSのデータを基に筆者作成

 四半期ごとの種類別半導体の出荷額を見ても、2021年Q3に、ロジックが395億米ドル、プロセッサやマイコンを含むMos Microが203億米ドル、アナログが190億米ドルと、いずれも過去最高を記録した(図6)。DRAMやNAND型フラッシュメモリなどのMos Memoryだけは、2018年Q3のピーク(441億米ドル)にわずかに及ばない424億米ドルだったが、この急峻な勾配からQ4にはメモリバブルのピークを超える過去最高の出荷額になるに違いない。


図6:四半期ごとの種類別の半導体出荷額(〜2021年Q3)[クリックで拡大] 出所:WSTSのデータを基に筆者作成

 このように、半導体全体も、各種半導体も、増産に次ぐ増産となっている。にもかかわらず、「半導体が足りない」と言われるのはなぜなんだ? 何用の、どの半導体が、どれだけ足りないのか? 今のところ、筆者はそれが分からない(後記)。だから、各方面からの取材に答えようがないのである。

ネズミは続々と増えていく

 半導体の統計データを見る限り、各種半導体は大増産されており、不足しているとは思えない(少なくとも筆者はその兆候をつかめていない)。それなのに、これに輪をかけて、半導体メーカー各社はとてつもない設備投資を行おうとしている。加えて、各国・各地域も、半導体の生産能力を向上させるために、これまた尋常ではない助成金を支出しようとしている。

 「半導体が足りないぞ!」というハーメルンの笛吹きに踊らされるネズミは、続々と増えていく(図7)。世界78億人の人々は、そんなに半導体を必要としているのか? きちんとマーケティングをした上での意思決定なのか? 筆者には、現在の半導体産業が、資本主義にのっとった健全な姿とは思えないのである。読者諸賢はどうお考えですか?


図7:加熱する半導体の設備投資と各国・地域の補助金政策[クリックで拡大]

後記:なぜ日本に半導体工場を作るのか

 2021年11月18日に中国の深センで、TrendForce主催の「Memory Trend Summit 2022」が開催された。そこで、TrendForceのAnalystのJoanne Chiao氏が、“Wafer Shortages Drives the General Growth of Foundry Capacity in 2022”のタイトルで講演した。それによると、現在の半導体不足は28nmに大きな原因があるという。

 28nmの半導体は、PCやルーターのWi-Fi用SoC(System on Chip)、PCやテレビの液晶制御用LSI(Timing Controller、略称TCON)、NANDフラッシュ用コントローラー、タブレットやスマートフォン用SoCおよびRF、クルマや産業用MCU(マイコン)など、使用用途が多岐にわたる。

 そして28nmの半導体は、プレーナ型トランジスタとしては最も先端品の一つであり、コストの点からもスイートスポットとなっていて、垂直統合型(IDM)の多くがファウンドリーに生産委託しているという特徴がある。このような事情から、需要がファウンドリーのキャパシティーを大幅に上回ってしまったため、半導体不足の元凶になっているという。

 もしこの分析が正しいのなら、どこかのファウンドリーが日本に、28〜22nm用の月産4万5000枚の半導体工場を建設する理由が腑に落ちる。彼らは、日本のために半導体工場をつくるのではない。ちゃんと胸算用をしているのである。それにまんまと乗ってしまって「世界最先端のファウンドリーを誘致した」などと得意がっている政治家や官僚は、どうかしているのではないか? そもそも、他国・他地域の一企業の利益のために、日本の税金を使うのは間違っているのではないか?

(次回に続く)

⇒連載「湯之上隆のナノフォーカス」記事一覧


セミナー開催のお知らせ

12月8日(水)に、サイエンス&テクノロジー主催で、『半導体過剰投資による価格大暴落&大不況への警鐘とその対策の羅針盤―日本にもTSMCの新工場建設!―』と題するセミナーを行います。詳細はこちらのサイトをご覧ください。



筆者プロフィール

湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。


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