有機材料を用いた蓄光発光材料の高性能化に成功:レアメタルや高温処理が不要に
九州大学と沖縄科学技術大学院大学(OIST)らの研究グループは、有機材料を用いた蓄光発光材料の高性能化に成功した。
分子設計を見直し、電荷分離状態を安定化
九州大学大学院工学府博士課程の陣内和哉大学院生(研究当時)、同最先端有機光エレクトロニクス研究センター(OPERA)の安達千波矢センター長および、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の嘉部量太准教授、Zesen Lin研究員らの研究グループは2021年11月、有機材料を用いた蓄光発光材料の高性能化に成功したと発表した。
研究グループはこれまで、電子ドナー性(電子供与性)と電子アクセプター性(電子受容性)を有する2つの有機材料を混合し、加熱融解したフィルムで蓄光発光が得られることを発表してきた。ただ、「無機蓄光材に比べ発光持続性能が劣る」「光を吸収できる波長が紫外光付近に限定される」「大気下での利用が困難」など、いくつかの課題もあったという。
そこで今回は分子設計を見直し、電荷分離過程において比較的安定した電子とホール(正孔)が形成されるようにした。しかも、比較的安定したホールが有機薄膜内を拡散するように設計。この結果、酸素などとの反応を大幅に抑えることができた。さらに、ホールトラップ材料を添加した。これによって、ホールと電子の分離状態を安定化させることに成功した。
これまでの課題を解決したことにより、窒素下では従来に比べ約10倍の性能を実現し、大気下でも機能する有機蓄光材料を開発した。分子の選択により発光波長も可視光から近赤外光まで取り出すことができるという。性能を高めるために用いていたレアメタルや、1000℃以上での高温処理も必要ないという。
研究グループは、電荷分離の効率をさらに高めていくことで、無機材料に匹敵する蓄光発光が可能になるとみている。また、その用途も蓄光材料だけでなく、熱ルミネッセンスや光刺激発光といった、光機能材料としての応用にも期待する。
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