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コラム

「CHIPS for America Act」、無用の長物を生み出す恐れ過去の失敗を繰り返さないため慎重に検討を(2/3 ページ)

今後10年間で米国半導体業界を再生すべく、520億米ドルを投入する法案「CHIPS(Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors)for America Act」が、米国上院で可決された。現在はまだ、下院による承認を待っているところだが、ここで一度、この法案が、米国の国内製造への投資を奨励していく上で最も効果的な方法なのかどうか、じっくり検討すべきではないだろうか。

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次々と上がる、「CHIPS Act」支持の声

 このような警告にもかかわらず、CHIPS Actを支持する声が次々と上がっているようだ。

 2021年5月に設立された「Semiconductors in America Coalition(SIAC)」は、CHIPS Actの議会通過を働きかけるロビー活動団体である。そのメンバー企業には、AppleやMicrosoft、Cisco Systems、Googleなどが名を連ねる。Lazonick氏によると、これらの企業は2011〜2020年に、合計6330億米ドルを株式買い戻しに投じているという。この金額は、CHIPS Actで政府が割り当てようとしている補助金520億米ドルの、約12倍に相当する。

 SIAは、「世界半導体生産能力全体に占める米国の割合は、今や12%にまで低下している。その主な理由は、米国の競争相手となる各国政府が、半導体製造分野に膨大なインセンティブや補助金を提供しているためだ」と警告する。

 SIAは2020年9月に、「Government Incentives and U.S. Competitiveness in Semiconductor Manufacturing(半導体製造における政府インセンティブと米国の競争力)」と題するレポートを発表し、その中で、「今後10年間で新たに建設される世界半導体生産能力全体のうち、米国の占める割合はわずか6%程度にとどまるだろう。一方で、最も大きい割合を占めるとみられるのが中国だ。500億米ドル規模の政府インセンティブプログラムがあれば、今後10年間で、米国内に新しい最先端工場を19カ所建設することが可能になる。これは、もし何の措置も取らなかった場合と比べると2倍の数であり、米国の生産能力を57%高めることになる」と指摘している。


CHIPS for America Actを支持する超党派議員グループのメンバーたち

 政府投資は、それが中国政府であろうと米国政府であろうと、マイクロエレクトロニクス技術開発において非常に重要な役割を果たしているのは間違いない。

 米国政府の資金提供は、70年前にマイクロエレクトロニクス業界が創出されて以来、NASAのような巨大技術プログラムにおいて、不可欠なものとなった。米国は1987〜1992年に、半導体関連の非営利研究開発コンソーシアムであるSEMATECHに対して、マッチングファンドとして5億米ドルを提供している。SEMATECHは、米国の半導体機器メーカーの競争力をサポートするために設立された団体で、14社の半導体メーカーで構成されている。また、米国が2001年に発表した「国家ナノテクノロジーイニシアチブ(National Nanotechnology Initiative)」の予算は、2001〜2010年が合計121億米ドル、2011〜2020年が合計169億米ドルで、2021年の予算案は17億米ドルだったという。

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