消費電流20μA、tinyML向けアナログチップを開発:AIスタートアップのAspinity
スタートアップ企業Aspinityにとって初となる製品「AML100」は、音やウェイクワード、振動検出に対応したアナログチップで、他のシステムを起動するために使用できる。「tinyML」(超低消費電力の機械学習)アプローチの採用によって消費電流を20μA未満に抑えているため、常時ON状態でAIが動作する必要があるデバイスのバッテリー寿命を延ばすことができるという
音やウェイクワード、振動検出に対応
スタートアップ企業Aspinityにとって初となる製品「AML100」は、音やウェイクワード、振動検出に対応したアナログチップで、他のシステムを起動するために使用できる*)。「tinyML」(超低消費電力の機械学習)アプローチの採用によって消費電流を20μA未満に抑えているため、常時オン状態でAI(人工知能)が動作する必要があるデバイスのバッテリー寿命を延ばすことができるという。
*)編集者注:同アナログチップは、システム起動に必要な音声(ウェイクワード)や音を検出した時のみ、プロセッサがそれらの音声をデジタル処理できるようにして、それ以外の音(動物の鳴き声や風の音など)を検出した時にはプロセッサを起動しないようにすることで、システム全体の消費電力を抑える。
アナログ処理によって、デジタル化およびデジタル処理に関連する電力ペナルティーや、無関係なデータのダウンストリーム処理に関連する電力消費を抑えられる。
AspinityのCEO(最高経営責任者)を務めるTom Doyle氏は米国EE Timesに対し、「システムの電力に関して重要なことは2つある。当社は、単に低消費電力チップの実現を目指しているわけではない。電力削減には低消費電力チップが重要だが、当社はステージからステージに移動するデータ量の削減も目指している」と述べている。
構成可能なアナログブロック
Aspinityの再構成可能な独自の「RAMP(Reconfigurable Analog Modular Processor)」アーキテクチャは、構成可能なアナログブロック(CAB:Configurable Analog Block)アレイを使用している。同ブロックは、アナログ信号処理素子と、標準CMOSで精度を高めるためにカスタマイズしたフローティングゲート技術を適用するAspinityの特許取得済み不揮発性メモリを搭載している。不揮発性メモリは、ブロックの構成に応じて、例えば、アナログフィルターのパラメーターやニューラルネットワークの重みを格納するために使用できる。
センサーインタフェースから前処理、特徴抽出(機械学習は使用しない)まで、全ての工程は、CABで実行される。ブロックは「アナログコンピュートインメモリ技術」を介してニューラルネットワークの活性化を計算するために使用されるが、デジタル変換は行わない。アレイは必要に応じて、複数のシグナルパスをサポートすることも可能だという。
音響信号処理やゼロ交差率などの特徴抽出の工程を含め、信号処理パイプラインは、CABアレイに集積されている。Aspinityは、「この手法は、多くのニューラルネットワーク層が特徴抽出に特化しているデジタル方式より、はるかに効率的だ」と主張する。
処理されたデータは、意思決定のためにニューラルネットワークに渡され、同じCABでニューラルネットワーク処理を行う。
AspinityのCSO(最高科学責任者)を務めるDavid Graham氏は、「当社は、他社と同じように行列乗算を行っている。違いは、他のコンピュートインメモリ方式では、アナログ信号を取得してデジタルに変換してから、アナログに戻して行列乗算を行っていることだ」と説明する。
Graham氏は、「当社の方式は、こうした変換を行う必要がない。アナログ信号を変換せずにアナログドメインで行列演算を行う回路があるため、必要となるいかなる信号もアナログ信号として出力する」と付け加えた。
各ブロックの不揮発性メモリは、デバイスの不整合を考慮し、個々の回路を調整するためにも使用されている。Doyle氏は、「この調整はアルゴリズムができたときに行うもので、事前に行うものではない。ばらつきがあることは理解しているが、対処する必要があるとき、つまりアプリケーションを実現する時に対処する」と述べている。
AML100は最大4つのセンサー入力をサポートしており、3軸加速度センサーや赤外線センサーとオーディオセンサーを組み合わせたセキュリティシステムなどのアプリケーションに対応。現在、最大8つのシグナルパスをサポートしている。Doyle氏は、「将来的には、おそらく2つのセンサー入力にスケールダウンする予定だ」と述べている。
AspinityのAML100は現在、顧客にサンプル提供しており、2022年第4四半期に量産を開始する予定だ。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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