初のWoW技術適用で大幅性能向上、Graphcoreの新IPU:TSMCとの協業で実現(3/3 ページ)
Graphcoreが、第3世代のIPU(Intelligence Processing Unit)を発表した。業界初となる3D Wafer on Wafer(以下、WoW)技術適用のプロセッサだ。
高性能化でも前世代品と同価格
新しいBow IPUは、既存のIPUと100%のソフトウェア互換性を提供する。Bow IPUは、Graphcoreの低レベルコンパイラ「Poplar」やソフトウェア開発キット(SDK)によってサポートされているため、PyTorchやTensorFlow、Keras、Lightning、Halo、PaddlePaddleなどのさまざまな高レベルフレームワークとの互換性を備える。
Bow IPUは、前世代品と同様、4つのIPUを搭載し1.4PFLOPS(ペタフロップス)の処理性能を実現する1Uのブレードサーバとして提供される予定だ。Graphcoreはこれまで競合品と比較するに当たり、チップ間の比較ではなく、価格/性能の指標をベースにしてきたが今回も同様だ。同社は、「BowPod-16」(16つのIPUを搭載、処理性能は5.6PFLOPS、14万9995米ドル)を、サイズが似ているNVIDIAの「DGX-A100」(8つのGPUを搭載、処理性能は5PFLOPS、29万9000米ドル)と比較し、優位性を主張している。
Bow IPUとBow-Podは、ウエハーコストが上昇し、2倍のウエハーを使い、パッケージングプロセスも複雑化しているにもかかわらず、前世代の同等品と同じ価格で提供されることになった。なぜ、このようなことができるのだろうか。
Toon氏はこの問いに対し、「製造規模の経済性に尽きる」と答えた。同氏はさらに、同社のチップに組み込まれた、冗長性に関する学習効果を考慮した広範な製造認定プロセスについても触れ、「これら全てを組み合わせることで、同等のコストでより高度な技術の提供を実現できる」と述べた。
また、「Graphcoreは今後、前世代品のシステムのコストを下げる可能性がある」と語った。
10EFLOPSを実現するGood Computer
Graphcoreはさらに、1960年代のコンピュータ科学のパイオニアであるJack Good氏にちなんで、「Good Computer」と名付けた製品のロードマップも発表した。Good氏は、人間の脳以上の知能を持つ「超知能(ultra-intelligent)」マシンを提唱した人物だ。GraphcoreのGood Computerは、これを実現するべく、WoWプロセスを適用したプロセッサのダイを積み重ねる将来世代のIPUを使い、8192個のチップで10EFLOPSのシステムを構築する予定だ。同システムは、最大500兆個のパラメータを持つモデルをサポートする予定だという。
Knowles氏は、「人間の脳のパラメトリック能力を超えることになり、超知能の発見への大きな一歩となることを期待している」と語った。
なお、同氏は、「Good Computerは約1億2千万米ドルで商用製品として販売する予定であり、現在顧客が求めているものに直接応える製品になる」と明言した。
同氏は、「2年間にわたるTSMCとの密接な開発によりテクノロジーが確立され、このステップの準備は整った。そしてこれは非常に強力なステップとなるだろう」と述べた。
Good Computerは2024年までに市場に投入される予定だ。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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