広島大ら、新たなイミド置換型π電子系骨格を開発:ポリマー半導体の電子移動度5倍に
広島大学や東京大学などによる共同研究チームは、新たなイミド置換型π電子系骨格「NPI」を開発したと発表した。これを基盤とするポリマー半導体の電子移動度は、従来に比べ5倍以上も高く、アモルファスシリコンと同等の性能だという。
「高い電子受容性」と「秩序高い配列」を両立
広島大学や東京大学などによる共同研究チームは2022年3月、新たなイミド置換型π電子系骨格「NPI」を開発したと発表した。これを基盤とするポリマー半導体の電子移動度は、従来に比べ5倍以上も高く、アモルファスシリコンと同等の性能だという。
ポリマー半導体は、印刷プロセスを用い比較的容易に薄膜化できるため、有機トランジスタ素子や有機薄膜太陽電池、有機熱電変換素子などへの応用が期待されている。ただ、電子受容性が低い、などの理由からn型ポリマー半導体の開発は遅れているという。
広島大学の研究グループはこれまで、「NPE」というπ電子系骨格を開発してきた。ところが、NPEを基盤とするポリマー半導体の電子受容性は比較的高いものの、電子輸送性の発現には不十分であったという。
そこで今回、NPEのエステル基を立体障害のないイミド基に変換した、「NPI」という新たなπ電子系骨格を開発した。量子化学計算で静電ポテンシャルを算出した結果、NPIの電子受容性はNPEのそれに比べ高いことが分かった。
東京大学の研究グループは、第一原理計算手法を用い、ポリマー半導体のモデル化合物のバンド構造を計算した。この結果、ポリマー半導体はNPIを基盤にすることで、高い電子移動度を示すことが確認された。
量子化学計算を用い、NPIを主鎖構造に有するポリマー「PNPI2T」の構造についても調べた。これにより、ベンチマークn型ポリマー半導体「N2200」に比べ、平面性が大きく向上することが分かった。
その理由として、NPI骨格中のイミド基が、隣接するチオフェン環から離れており、立体障害が軽減されたことを挙げた。大型放射光施設「SPring-8」のビームライン(BL46XU)を利用し、ポリマー薄膜のX線構造解析を行った。これによると、ポリマー主鎖同士の距離はPNPI2Tが3.4Å程度で、N2200の3.9Åと比べて小さい。ポリマー主鎖が平面的で秩序高く配列しているため、電子が流れやすい構造となっていることが分かった。
研究グループは、PNPI2Tを半導体層とする有機トランジスタ素子を作製した。その電子移動度は0.19cm2/Vsであった。この値は、N2200素子の電子移動度(0.14cm2/Vs)をやや上回る程度だという。
この要因が「電子受容性の低さ」であることを突き止め、電気陰性度の高いフッ素を、PNPI2Tのビチオフェン部位に、2つ互いに向き合うように置換した「PNPI2T-iF2」を合成した。ところが、非結合性相互作用によってPNPI2Tに比べ溶解性が低下し、薄膜も不均質となり電子移動度はさらに低下した。
そこで、2つのフッ素が互いに反対を向くように置換した「PNPI2T-oF2」を合成した。PNPI2T-oF2では非結合性相互作用がなく、均一な薄膜を形成できたという。物質・材料研究機構の研究グループが行った薄膜の光熱偏向分光測定によると、PNPI2T-oF2は、PNPI2TやPNPI2T-iF2に比べ、秩序高いポリマー主鎖構造を持つことが分かった。この結果、PNPI2T-oF2を用いた素子の電子移動度は、0.7cm2/Vsと大幅に向上した。
今回の研究成果は、広島大学大学院先進理工系科学研究科応用化学プログラムの尾坂格教授や三木江翼助教、東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻の岡本敏宏准教授、物質・材料研究機構の角谷正友主席研究員、高輝度光科学研究センターの小金澤智之主幹研究員らによるものである。
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