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東京大学ら、反強磁性型の励起子絶縁体を発見イリジウム酸化物が条件を満たす

東京大学は、ブルックヘブン国立研究所などの研究グループと共同で、スピン三重項の励起子が生み出す反強磁性励起子絶縁体について、イリジウム酸化物を用いた実験により、その存在を明らかにした。

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反強磁性励起子絶縁体の特定でカギを握る「縦モード」の検出

 東京大学理学系研究科の諏訪秀麿助教は2022年2月、ブルックヘブン国立研究所、ポールシェラー研究所、テネシー大学、アルゴンヌ国立研究所、オークリッジ国立研究所、中国科学院、上海科技大学の研究グループと共同で、スピン三重項の励起子が生み出す反強磁性励起子絶縁体について、イリジウム酸化物(Sr3Ir2O7)を用いた実験により、その存在を明らかにしたと発表した。

 電子と正孔(ホール)の結合状態である励起子が、ボーズ・アインシュタイン凝縮を起こすと「励起子絶縁体」と呼ばれる状態となる。この現象は古くから理論的に予言されていたが、実際の物質でスピン三重項の励起子が凝縮して生じる励起子絶縁体は、これまで発見されていなかったという。

 研究グループは今回、三重項励起子が凝縮して生じる状態の1つである「反強磁性励起子絶縁体」について、そのメカニズムを解明した。非磁性バンド絶縁体で電子間相互作用を考慮すると、三重項状態が安定化する。電子相互作用を強めていくと量子臨界点に達する。こうなるとバンド絶縁体が不安定となり、励起子がボーズ・アインシュタイン凝縮を起こす。さらに、量子臨界点を過ぎると、反強磁性励起子絶縁体が生じるという。


励起エネルギーの電子間相互作用依存性と反強磁性励起子絶縁体の励起モード[クリックで拡大] 出所:東京大学

 反強磁性励起子絶縁体を特定するには、「縦モード」と呼ばれる励起モードを検出する必要がある。一般的に、反強磁性体では「マグノン」と呼ばれる横モードの励起が存在する。これに対し、反強磁性励起子絶縁体では横モードに加え、縦モードが現れる。この時、縦モードを検出するには、励起エネルギーが横モードのそれに比べ2倍より小さいことが条件となる。

 研究グループは今回、Sr3Ir2O7がこれらの条件を満たした反強磁性励起子絶縁体であることを確認した。この物質の縦モードが持つ特徴を理論的に予測し、共鳴非弾性X線散乱による実験を行い同定した。結晶中では、強いスピン軌道結合の効果により、イリジウムのある電子軌道に平均して電子が1個配置される。結晶構造はイリジウムを含む層が2層に重なり、擬2次元系を形成しているという。


左はSr3Ir2O7の結晶構造、中央は2層中のイリジウムとz方向の反強磁性秩序、右は上からqc=0、qc=0.25、qc=0.5の波数における散乱強度のエネルギー依存性[クリックで拡大] 出所:東京大学

 Sr3Ir2O7は、2つの層の位相が同じとなる波数ベクトル(qc=0)では縦モードが生じず、位相が反対となる波数(qc=0.5)で縦モードの散乱強度が最大となる。また、縦モード励起のピークは、限られた波数ベクトルのみで現れることが分かった。


波数ベクトルとエネルギーに対する散乱強度のカラープロット[クリックで拡大] 出所:東京大学

 縦モード励起エネルギーの温度依存性についても調べたところ、磁気転移温度付近において励起エネルギーの低下(ソフト化)が顕著であった。この現象は、転移温度より高温で安定化し始めた励起子が、相転移温度でボーズ・アインシュタイン凝縮を起こす理論予測と一致したという。また、磁気転移温度でキャリアが減少するのに伴い、電気抵抗は増加した。

 これらの現象は、これまで行ってきたスピン模型による研究理論では統一的に理解できなかったという。研究グループは、電荷の自由度を適切に取り入れた理論を構築することによって、反強磁性励起子絶縁体の同定に成功した。


上段は波数(0、0)かつqc=0と(1/2、1/2)かつqc=0、中段は(0、0)かつqc=0.5と、(1/2、1/2)かつqc=0.5での温度とエネルギーに対する散乱強度のカラープロット、下段は波数(0、0)と(1/2、1/2)における散乱エネルギーゼロ付近の弾性散乱強度と温度依存 出所:東京大学

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