東北大ら、有機リチウムイオン電池で4V動作を実証:正極材料にクロコン酸を採用
東北大学多元物質科学研究所らの研究チームは、低分子の有機化合物である「クロコン酸」を正極材料に用い、4Vを超える高い電圧で有機リチウムイオン電池が動作することを実証した。
レアメタルフリーで高エネルギー密度の蓄電池開発へ
カリフォルニア大学ロサンゼルス校で博士課程の勝山湧斗氏と東北大学多元物質科学研究所の小林弘明助教および、本間格教授らは2022年3月、低分子の有機化合物である「クロコン酸」を正極材料に用い、4Vを超える高い電圧で有機リチウムイオン電池が動作することを実証したと発表した。
現行のリチウムイオン電池は、正極材料となるコバルトなど、多くのレアメタルが用いられている。ところが、コバルト資源は2050年頃にも枯渇するといわれており、レアメタルフリーの正極材料を開発することが課題となっている。
新たな正極材料の候補としては、炭素や窒素、酸素、水素といった軽い元素のみで構成される有機化合物が注目されている。ところが、これまで報告された有機化合物の多くは動作電圧が低く、3V以下であった。
研究グループは、低分子有機化合物の1つである「クロコン酸」に着目した。炭素同士が五角形の形で結合し、その炭素それぞれに酸素が結合した分子構造をしており、一般的にレドックス可能な炭素−酸素結合を5つ有しているという。
クロコン酸はその1分子当たり最大で4個の電子を貯蔵することが可能である。この4電子レドックス反応を利用できれば理論容量は754mAh/gと極めて大きくなる。この値は現行コバルト系のLiCoO2の4倍以上だという。これまで、蓄電池正極にクロコン酸を用いた事例も報告はされているが、5つある炭素−酸素結合のうち、2つまでしか利用されておらず、そのレドックス電位も2V以下と低い動作電圧であった
研究グループは第一原理計算を用いて、残った炭素−酸素結合のレドックス電位を調べた。この結果、別の2つの炭素−酸素結合で、4Vを超えるレドックス電位を示すことが分かった。このレドックス反応を利用できれば、現行の無機化合物材料や近年報告されている有機分子材料、有機ポリマー材料などに比べ、高いエネルギー密度の蓄電池を開発できるという。
実際に、リチウムイオン電池の正極にクロコン酸を適用したところ、4Vでの放電が繰り返し行われることが明らかになった。ただ、現時点ではクロコン酸の持つ高い理論容量(754mAh/g)を生かすまでに至ってはいないというが、有機材料ならではの分子設計により、高容量と高電圧の両立は可能とみている。
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