新たな宇宙空間向け低コストICを開発、STマイクロ:プラスチックパッケージで提供
STMicroelectronics(以下、ST)の耐放射線ICの最新シリーズは、地球低軌道(LEO)での使用を念頭において設計された、最大50キロrad(Si)の耐放射線性を備えたプラスチックパッケージである。これにより、次世代衛星では、比較的安全なLEOから地球観測とブロードバンドインターネットの提供ができるようになる。従来の宇宙空間に別れを告げ、新たな宇宙空間を活用する時が目前に迫っている。
STMicroelectronics(以下、ST)の耐放射線ICの最新シリーズは、地球低軌道(LEO)での使用を念頭において設計された、最大50キロrad(Si)の耐放射線性を備えたプラスチックパッケージである。これにより、次世代衛星では、比較的安全なLEOから地球観測とブロードバンドインターネットの提供ができるようになる。従来の宇宙空間に別れを告げ、新たな宇宙空間を活用する時が目前に迫っている。
STの最新のLEOシリーズは、データコンバーターと電圧レギュレーター、LVDS(低電圧差動信号)トランシーバー、ラインドライバ、5つのロジックゲートを搭載する。これらは、総非電離線量に対する高い耐性と最大62.5MeV.cm2/mgのシングルイベントラッチアップ(SEL)耐性、−40〜+125℃の温度耐性を備え、AEC-Q100仕様をベースにしている。STは、「低コストのプラスチックパッケージと新たな宇宙空間の魅力によって、衛星コンステレーションを追加展開する動きが進むと予想されるが、LEOシリーズはこうした需要に対応できる製品だ」と述べている。
安価なプラスチックパッケージ採用が可能な地球低軌道
では、“従来の宇宙空間”と“新たな宇宙空間”とは、いったいどういう意味なのだろうか。STの宇宙およびHiRel(高信頼性)製品担当シニアマーケティングマネジャーを務めるThibault Brunet氏は、「両者の違いは、静止地球軌道(従来の宇宙空間)とLEO(新たな宇宙空間)内の粒子放射の量にある」と説明する。
Brunet氏は、「宇宙空間は均質ではない。従来の宇宙空間は、ほとんどが静止軌道で高エネルギーの粒子がたくさんあるため、製品は非常に堅ろうでなければならない。新たな宇宙空間は、低軌道で大気によって保護されているため、粒子ははるかに少ない。次元が完全に異なっている」と話す。
LEOは磁場と大気の両方の保護を受ける(STの広報担当者によると、2つのうち磁場保護はより強力だという)ため、宇宙用ICの製造に使用するパッケージングの種類に関して自由度が高い。従来の宇宙空間では、新たな宇宙空間とは異なり、より高い静止軌道で見られる高レベルの放射線に耐えられる密閉されたセラミックパッケージが必要だ。新たな宇宙空間には高エネルギー粒子がないため、プラスチックパッケージが実現可能な選択肢になる。
Brunet氏は、「今回発売する新シリーズには、宇宙用耐放射線性製品における40年の経験が生かされている。われわれは、車載製品の専門知識とプラスチック部品の品質スキームを活用し、それらを組み合わせて、低軌道に存在する粒子に対する放射線耐性を備えた製品を製造している」と述べている。
プラスチックパッケージは、従来のセラミックパッケージに比べ、堅ろう性は劣るものの、大量生産が可能なため、比較的低コストで製造することができる。
Brunet氏は、「従来の宇宙空間用の耐放射線性製品の価格は、数そのものが少ないため、コストが高い。われわれの業界において、価格に影響を及ぼしているものは、パッケージや、現在実行している特定のタスクだけというわけではない。あらゆるものが少しずつ特定の影響力を持ち、少しずつ高価格化の要因となっているが、結局のところ、量が少ないということが一番の要因だといえる」と述べる。
また、気密性の高いセラミックパッケージは、QML(Qualified Manufacturers Listing)やESCC(European Space Components Committee)の厳しい資格や製造工程をパスしなければならず、これがコストアップに拍車を掛けている。しかし、STの耐放射線性プラスチックパッケージICの品質が、宇宙分野向け製品として適していないというわけではない。
STは、「LEO衛星に要求される性能と品質保証は、従来の衛星とほぼ同様で、STの耐放射線性プラスチックパッケージICは最適化された認定/生産フローとスケールメリットによって設計開発されている。ユーザー側で認定取得やアップスクリーニングを追加する必要がないため、コストやリスクを大幅に削減することが可能だ」と述べている。
さらに外部端子は、ウィスカ(金属表面に成長するひげ状の結晶)のような特有の金属疲労の発生を防止できるよう仕上げられているという。
Brunet氏は、「従来の宇宙空間向けでは気密性の高いセラミックパッケージが必要だが、LEOではウィスカが発生しないことを実証できさえすれば、プラスチックパッケージで十分に対応可能だ。無重力の宇宙空間では、ウィスカが発生する可能性が高いため、短絡の発生によってデバイスが完全に壊れてしまう恐れがある。われわれは、さまざまな方法で寿命試験デバイスのシミュレーションを行うことにより、デバイスが今後5年間でどのように動作するのかを試験/予測することが可能だ。このため、実際に5年間を費やして動作試験を行う必要がない」と述べる。
「パッケージ/スクリーニングは決して簡単なことではないが、STは幸いにも、最近3000万米ドルを投じて工場を改修したことにより、最新の設備と生産能力を備え、性能面でも成長したため、より高度な市場に参入できたといえる」(同氏)
低軌道衛星向け低コストの耐放射線性ICシリーズは、1000個購入時でロジックICが70米ドルから、データコンバーターが450米ドル。開発モデルは10個購入時で135〜775米ドルだ。
【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
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