東京大ら、テラヘルツ領域の光起電力効果を観測:強誘電体のフォノン励起を活用
東京大学と理化学研究所らの研究グループは、強誘電体「BaTiO3(チタン酸バリウム)」を用い、テラヘルツ光照射による光電流の観測に成功した。可視光の約1000分の1の光エネルギーで発電が可能になるという。
可視光の約1000分の1の光エネルギーで発電が可能に
東京大学大学院工学系研究科の岡村嘉大助教や森本高裕准教授、高橋陽太郎准教授、永長直人教授および、理化学研究所創発物性科学研究センターの十倉好紀センター長らを中心とする研究グループは2022年3月、強誘電体「BaTiO3(チタン酸バリウム)」を用い、テラヘルツ光照射による光電流の観測に成功したと発表した。可視光の約1000分の1の光エネルギーで発電が可能になるという。
光を照射することで物質中に電流・電圧が生じる「光起電力効果」を利用すると、光エネルギーを電気エネルギーに変換できる。代表的な応用例が太陽光発電である。強誘電体で生じる「バルク光起電力効果」も注目されているが、テラヘルツ領域のような低エネルギーの光で光起電力を生成するのは難しいといわれてきた。
岡村氏らは、バルク光起電力効果のメカニズムの一つである「シフト電流機構」を活用すれば、電子遷移を介さなくても光電流の生成が可能であることに着目した。強誘電体においてはテラヘルツ帯のように極めて低いエネルギー領域にも、光と強く相互作用するフォノン励起が存在している。これを活用することで大きな光電流を生成できることが分かった。
研究グループは、BaTiO3を用いてテラヘルツ光照射時の光電流を測定した。観測した光電流は、フォノンモードに対して顕著な依存性を示した。その上、光電流の大きさが外部電圧に依存しないという、これまでの光起電力効果とは異なる性質であることを確認した。
そこで、シフト電流機構に基づく理論モデルを新たに構築し、第一原理計算を行った。この結果、観測した光電流の大きさについてほぼ説明できることが分かった。これは、量子力学的な位相効果が重要な役割を果たしていることを示したものだという。
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