大規模投資が半導体エコシステムにもたらすメリット:合計額は既に2490億米ドルに
大手半導体メーカー各社が、2022年に入ってから続々と大規模投資を行っている。ようやく半導体不足が緩和される頃には、半導体バリューチェーンはこうした大規模投資のおかげで、大きな利益を享受できるようになるだろう。半導体不足のさらなる軽減の他、新たな雇用の創出や、製造装置の需要増加、半導体設計イノベーションの加速などが期待される。
大手半導体メーカー各社が、2022年に入ってから続々と大規模投資を行っている。ようやく半導体不足が緩和される頃には、半導体バリューチェーンはこうした大規模投資のおかげで、大きな利益を享受できるようになるだろう。半導体不足のさらなる軽減の他、新たな雇用の創出や、製造装置の需要増加、半導体設計イノベーションの加速などが期待される。
以下に、最近行われた投資の一部を取り上げてみたい。
- Intelは2022年3月、新しい大規模な半導体製造施設をドイツに建設予定であると発表した。同社は、今後欧州全体で880億米ドルを投入予定としており、今回が第一段階となる。今回の投資ではドイツ新工場の他、アイルランドで既存工場を拡充、フランスでは設計/研究施設を、イタリアではパッケージング/組み立て工場をそれぞれ建設する予定だという。
- バイデン米大統領は、2022年初頭に行った一般教書演説の中で、Intelが米国の半導体製造に1000億米ドルを投じる予定であることを明かした。Intelは当初、オハイオ州コロンバスに建設予定の新しい半導体製造施設に200億米ドルを投じるとしていたことから、その投資金額は500%増加したことになる。
- TSMCは2022年4月に、2022年の生産能力拡大に向けて約440億米ドルを投じる計画をあらためて公表した。これは、同社としては過去最高の投資額であり、2021年当時に過去最高額とされていた300億米ドルと比べると、47%増という飛躍的な伸びを見せている。
- Samsung Electronicsは2021年11月、製造能力の増強と世界半導体不足の緩和の実現を目指す3年戦略の一環として、米国テキサス州の半導体工場建設に170億米ドルを投じる計画を発表した。同社にとって、米国への投資としては過去最大規模となる。
これら合計2490億米ドルに達する膨大な投資により、半導体エコシステム全体において切望されているサポートが提供されることになるだろう。
半導体不足の終焉と新たな機会
エコシステム全体の半導体生産能力を増強するためには、今後2〜3年を要するとみられるが、自動車やスマートフォン、消費者向け技術などの分野にとっては良い知らせだといえるだろう。これらの業界では、半導体不足によるダメージが他の分野よりも深刻なため、製品販売に遅れが生じ、収益が数十億米ドル規模で減少している。
同業界では、新たな生産能力の稼働開始に伴い、必要としていた標準チップだけでなく、新しい特性/機能性を備えた新型チップなども容易に入手できるようになるだろう。実際に、TSMCのCFO(最高財務責任者)を務めるWendell Huang氏は、「2022年の設備投資費400億〜440億米ドルのうち、70〜80%の資本予算を、2nm/3nm/5nm/7nmなどの最先端プロセス技術に対して割り当てる予定だ」と述べている。
製造装置、雇用、供給など広がる選択肢
最近の投資により、半導体製造装置や、その装置を稼働させるために必要な熟練労働者などに対する需要が増加するとみられる。例えば、Intelがオハイオ州の製造工場に200億米ドルを投じる予定であると発表した際には、計8カ所の最先端工場全体で最大1万人の雇用が創出される見込みだと報じられていた。
また欧州でも同様に、ドイツのザクセン・アンハルト州マクデブルクの工場建設によって創出される雇用は、建設工事で7000人、工場の正社員が3000人の他、サプライヤー/パートナー全体では数万人規模が見込まれている。
半導体顧客企業にとっては、複数のサプライヤーの生産能力を利用できるようになると、調達先の選択肢の幅も広がる。通常、複数のサプライヤーが存在すれば、競争力が高まり、サプライチェーンのリスクも低減することができる。メーカー各社は、万が一サプライヤーの1社に予期せぬ問題が生じたとしても、そこからの回復が可能な柔軟性を高められるようになる。
生産能力拡大への迅速な対応を
これらの新工場が今後2〜3年以内に稼働を開始すれば、利用可能な生産能力が増えることになるため、世界各国の企業は今すぐ計画を立て始める必要がある。製造メーカーや機器メーカーにとって、過去数年間の過ちを繰り返さないためには、こうした生産能力を早い段階で確保し、将来の計画/予測にうまく組み込んでいくことが極めて重要だ。
その一方で半導体業界は、これらの工場が稼働を開始した時に、熟練労働者を確実に確保するための方法を模索する必要がある。現在多くの業界で、既に人手不足が生じている。半導体製造分野では、かなり専門的な技術に精通した人材が必要だ。メーカー各社が、確保可能な熟練労働者の数を増やすためには、例えばトレーニングや、STEMプログラム、採用活動など、さまざまな方法があるが、今すぐに実行する必要がある。
最近の投資は全般的に、半導体エコシステム全体にとって素晴らしいニュースだといえるだろう。製造施設が今後数年以内に稼働を開始することによって、半導体不足を解消していく上でどのようなサポートが提供され、機器メーカー各社がどのように売上高を増加させていくのかをこの目で見られるのは、非常にワクワクすることではないだろうか。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 3Mベルギー工場停止、驚愕のインパクト 〜世界の半導体工場停止の危機も
2022年3月8日、米3Mのベルギー工場が、ポリフルオロアルキル物質(Poly Fluoro Alkyl Substances, PFAS)の一種である、フッ素系不活性液体(登録商標フロリナート)の生産を停止した。これによって半導体生産は危機的な状況に陥る可能性がある。本稿では、PFAS生産停止の影響について解説する。【訂正あり】 - ASML、「半導体不足は今後2年間続く」と警鐘鳴らす
半導体製造に非常に重要となるEUV(極端紫外線)リソグラフィ装置の唯一のメーカーであるオランダのASMLは、半導体不足は少なくとも今後2年間続くと予想している。この警鐘は、ASMLが同社にとって不可欠なレンズの供給を、ドイツの光学機器メーカーCarl Zeiss(以下、Zeiss)などのサプライヤーに依存していることに起因するといわれている。Zeissもまた、サプライチェーンの問題による影響を受けている。 - 22年1月の世界半導体市場、前年同月比27%増の507億ドルに
半導体不足が続いているにもかかわらず、半導体工業会(SIA:Semiconductor Industry Association)が2022年3月3日(米国時間)に発表したデータは、半導体売上高の伸びを示している。また、米国の市場調査会社IC Insightsの調査によると、需要の増加が続いていることを受け、業界の設備投資額も史上最高を記録する見通しだという。 - 半導体不足の影響、新興企業にも波及
半導体不足はいまだに続き、解消のメドは立っていない。それどころか、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の収束も見えず、ロシアによるウクライナ侵攻が発生するなど、半導体関連のサプライチェーンが不安定になる要素は増えている。それに伴って、半導体製造の“自国回帰”の動きが進み、半導体への投資は加速している。こうした状況は、ハイテク関連のベンチャー企業にどのような影響を与えているのだろうか。 - 米国、ロシアへの半導体輸出規制を強化
米国政府は、ロシアのウクライナ侵攻を受け、軍事機器に使用される半導体技術へのロシアのアクセスを制限するため、半導体サプライチェーンに対する規制を強化する。 - Intel、ドイツ工場建設などEUに330億ユーロ投資へ
Intelは2022年3月15日(米国時間)、EUでの新たな半導体工場建設や拡張、研究開発に330億ユーロ以上を投資する計画の概要を明かした。同社は今後10年間で800億ユーロをEUで投資する計画であり、今回の発表はその第1段階の内容となる。同社は、「この投資によって、Intelは欧州に最先端の技術を導入し、欧州の次世代半導体エコシステムを構築、よりバランスのとれた弾力的なサプライチェーンの必要性に対処していく」と述べている。