2022年の設備投資は400億ドル超に、TSMC:2022年Q1の決算を発表
TSMCは、チップの需要が鈍化するかもしれないという懸念にもかかわらず、生産能力拡大のため2022年に400億米ドル以上を投入する計画をあらためて公表した。
TSMCは、チップの需要が鈍化するかもしれないという懸念にもかかわらず、生産能力拡大のため2022年に400億米ドル以上を投入する計画をあらためて公表した。
TSMCは2022年4月14日(台湾時間)に開催した同年第1四半期決算説明会で、今後数年間で最大20%の成長が見込まれる需要に対応すべく、2022年の設備投資額が440億ドルにも上るとする3カ月前の予想を維持した。
同社の2022年第1四半期の売上高は、前年同期比で36%増となる175億7000万米ドル。純利益は同45.1%となる2027億3000万ニュー台湾ドル(約8808億円)だった。同社は、売上高成長率の見通しを20%台半ばから後半に上方修正した。ちなみに半導体業界全体の成長率は約20%とされている。TSMCの強気の見通しの背景には、チップ不足による価格上昇と、多くの顧客が負担している生産コストの上昇という2つの要因が存在する。
TSMCによれば、特にHPC(High Performance Computing)分野での売上高が高いという。「需要が弱い民生機器とは全く違う」とTSMCは述べる。
同社の2022年第1四半期の売上高においてHPC分野が占める割合は41%で、最大となっている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって多大な影響を受けた車載向けチップの売上高比率も急成長した。
AppleやXilinxなどのチップを製造しているTSMCだが、需要には追い付けていないという。TSMCのCEOであるC.C. Wei氏は「2022年も生産能力は厳しい状況になるだろう」と語った。
Susquehanna International GroupでTSMCとASMLを担当するMehdi Hosseini氏によると、チップ不足が続くことと、今後製造装置や材料の供給が減るとみられていることから、少なくとも2022年の大半はサプライチェーン全体がひっ迫する可能性がある。
Hosseini氏は「半導体製造装置メーカーは、好調な出荷に見合う十分な調達計画を立てることができなかったため、2021年末にはチップ不足が製造装置メーカーに影響を与え始めた」と米国EE Timesに語った。「この状況はことし(2022年)前半も続き、後半にはやや緩和するだろう」(同氏)
TSMCによると、ロシアによるウクライナ侵攻は、ネオンやキセノンなど東欧地域からの主要材料の供給における潜在的な不足を引き起こす可能性があるとする。
TSMCは複数のサプライヤーから希ガスを調達していて、当面は生産への影響はないとみている。一方で、設備の納品の遅れが、次世代のプロセスノードの立ち上げにどのような影響を及ぼすかについては明らかではないという。
「N3」は2022年下半期に立ち上げ
TSMCは、2022年下半期にプロセスノード「N3」を立ち上げる予定だ。これは、TSMCで言うところの3nmプロセス技術に当たる。N3の最初の大口顧客はAppleとIntelだが、後者は今後数年のうちにTSMCを追い抜くことを目標にしている競合でもある。TSMCは2023年後半には、N3の派生プロセスとなる「N3E」も立ち上げる予定だ。
Wei氏は、N3Eの進捗は「予定よりも進んでいる」とし、計画よりも早く生産が開始される可能性があると述べた。
次世代ノードとなる「N2」については、2025年の生産開始に向けて開発が順調に進んでいるとTSMCは述べる。N2は、同社がGAA(Gate-All-Around)を採用する最初のプロセスノードとなる見込みで、3D(3次元)チップの主力であるFinFETプロセスを徐々に置き換えていくことになる。
TSMCは、ASMLの高NA(開口数) EUV(極端紫外線)リソグラフィ装置を次世代プロセスに導入するかについて、現在も評価中だ。「N2に高NA EUV装置が採用されるかどうかについては、何とも言えない」(Wei氏)
決算説明会に出席したアナリストたちからは、世界経済の低迷と、それがどうTSMCに影響するのかに対する懸念の声が上がった。Morgan Stanley.のアナリストであるCharlie Chen氏は、「消費者の最終需要の修正が見られる」と述べた。
TSMCによると、スマートフォンやタブレットの需要は減少しているという。需要が全体的に減速した場合でも、TSMCはその影響は軽微とみている。Wei氏は「われわれは投資を続ける」と強調した。
【翻訳、編集:EE Times Japan】
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