Intel、オレゴンの製造施設「D1X」を30億ドルで拡張:技術革新のペースを加速
2022年4月11日(米国時間)、Intelは米国オレゴン州ヒルズボロの先端技術に基づく製造施設「D1X」に、30億米ドルを投じて拡張した新棟「Mod3」を開設したと発表した。これは、同社が半導体プロセス技術でのリーダーシップを奪還するための投資の一環だ。
2022年4月11日(米国時間)、Intelは米国オレゴン州ヒルズボロの先端技術に基づく製造施設「D1X」に、30億米ドルを投じて拡張した新棟「Mod3」を開設したと発表した。これは、同社が半導体プロセス技術でのリーダーシップを奪還するための投資の一環だ。
IntelのCEO(最高経営責任者)であるPat Gelsinger氏は、テープカットのセレモニーで、米国における半導体研究開発(R&D)のリーダーシップに対する同社のコミットメントについて繰り返し言及した。米国最大の半導体メーカーであるIntelは、ムーアの法則が健在で、まだ衰えていないことを知らしめるため、D1Xが位置する「Ronler Acres」の約500エーカー(約2.02km2)のキャンパスの名称を「Gordon Moore Park」に変更した。近年、ムーアの法則が流れを失ってきたという懸念が広がっていた。
プロセスロードマップ実現の能力を強化
Gelsinger氏は、報道発表資料の中で「Intelは設立以降、ムーアの法則を絶え間なく前進させることに専念してきた。『IDM 2.0』という当社の大胆な製造戦略を支援する上では、加速化されたプロセスロードマップが不可欠である。この新しい製造拠点によって、そうしたロードマップを実現する能力が強化されるだろう。オレゴン州は昔から、当社の半導体R&Dの中心地であった」と述べた。
同拠点には、Intelのグローバル技術開発組織の本部がある。この組織は、同社の製品ロードマップを支える新たなトランジスタアーキテクチャ、ウエハープロセス、パッケージング技術を開発することで、ムーアの法則を前進させる役割を担っている。オレゴンの製造拠点では、PCからクラウドインフラ、5G(第5世代移動通信)ネットワークまで幅広いアプリケーションの土台を提供するよう期待されている。主にヒルズボロを拠点するチームには、約1万人のスタッフがいる。
同チームが取り組む主要な課題の1つとして、チップ上の機能を原子のサイズまで縮小することが挙げられる。オレゴンの製造拠点は、高誘電金属ゲート技術、トライゲート3Dトランジスタ、ひずみシリコンなどのイノベーションで高い評価を得ている。いずれのイノベーションも、ムーアの法則に対応する上で基盤となっている。
Intelの技術開発部門でゼネラルマネジャをー務めるAnn Kelleher氏は「これらの革新的なプロセスイノベーションは全てここオレゴンで生まれた。D1Xの新たな拡張により、オレゴンは次世代の最先端技術を実現するための好位置につくことができた。半導体は米国の技術リーダーシップ、経済、サプライチェーンの回復力を支える基盤だ。Intelは、プロセスとパッケージングのR&D、そして最先端半導体の大量生産の大部分を米国で行っている世界で唯一の企業だ」と述べた。
2021年、IntelはTSMCやSamsung Electronicsなどの競合先に対するリードを奪還することを目指した野心的なプロセス技術ロードマップを発表した。Intelは、2025年まで、あるいはそれ以降も新製品に向けた技術を活用し、毎年改良を加えながらイノベーションのペースを加速させる計画を立てている。
これらのイノベーションには、インテルの新しい3DトランジスタアーキテクチャであるGAA(Gate-All-Around)-FETの「RibbonFET(リボンFET)」、裏面電源供給技術の「PowerVia」および高NA(開口数)EUV(極端紫外線)リソグラフィが含まれる。
30億米ドルを投じたD1Xの拡張により、Intelは、次世代のシリコンプロセス技術を開発するために、追加で27万平方フィート(約2万5083m2)のクリーンルームスペースを確保できるようになる。同社は、D1Xから世界の製造拠点へと技術を展開していく方針だ。
米国の半導体製造復活に貢献
オレゴン州におけるIntelの事業は、ポートランドの西20マイル(約32km)にあるヒルズボロの4つのキャンパスに約2万2000人の従業員を擁する、世界最大規模の施設と人材の集積地となっている。今回の拡張によって、同社のオレゴン州への投資総額は520億米ドル以上となる。
同社は、米国政府が法案成立を推し進める520億米ドル規模の補助金の一部を獲得し、米国内の半導体製造を復活させることを目指している。米国は、かつては世界最大の半導体製造国だったが、現在の製造量は、世界全体の約12%になっている。米国の半導体産業の衰退は、しばしば国家安全保障上の脆弱性と見なされている。
Intelは、「従業員のほか、地元の請負業者やサプライヤーの広大なネットワーク、設備投資、その他の下流への影響により、年間10万5000人以上の雇用、100億米ドル以上の労働所得、190億米ドルの国内総生産に貢献する」と述べている。
【翻訳:青山麻由子、編集:EE Times Japan】
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