可視光で動作、有機電気光学ポリマー光変換器を開発:立体ディスプレイなどに応用
情報通信研究機構(NICT)未来ICT研究所は、可視光で動作する有機電気光学ポリマーを開発し、これを用いて作製した光変調器が、波長640nm(赤色)で動作することを確認した。
可視光域での吸収を大幅に抑えるよう、EO分子の構造を設計
情報通信研究機構(NICT)未来ICT研究所は2022年5月、可視光で動作する有機電気光学ポリマーを開発し、これを用いて作製した光変調器が、波長640nm(赤色)で動作することを確認したと発表した。立体ディスプレイやスマートグラスなど、次世代表示デバイスへの応用が可能とみている。
光変換器は、電気信号を光信号に変換するためのデバイス。電気光学(EO)効果を持つ色素分子を結合・分散させた有機電気光学ポリマーは、無機誘電体のEO材料「LN(ニオブ酸リチウム)」と比較し、大きな電気光学係数と高速化に対応できるという特長があり、加工性にも優れている。ところが、これまでのEOポリマーを用いた光変換器は、可視光域(波長380〜780nm)での吸収損失が大きく、「波長1550nmなど近赤外光でしか利用できない」といった課題があった。
そこで研究グループは、これまで蓄積してきた測定技術と分子設計技術をベースに、可視光域での吸収損失が小さく、高い電気光学係数を持つEOポリマーを開発した。具体的には、EO分子の構造を短く曲がりにくく設計した。これにより可視光域での吸収を、従来のEOポリマーと比べ2万分の1以下に抑えることができたという。
新たに開発したEOポリマーを用いて、マッハ・ツェンダー型干渉計構造を設計し、微細加工プロセスを用いて光変調器を作製した。可視光域で動作させるには従来の光変調器より、導波路のサイズを小さくする必要があるため、リッジ型導波路を採用した。
開発した光変調器に電気信号を加えて、出射光の変調動作を評価した。この結果、波長640nmで性能指数は0.52V・cmとなった。これまで報告されているLN光変換器やEOポリマー光変換器に比べて、動作波長が短く性能指数も3分の1以下で、極めて高い効率を実現した。
研究グループは今後、次世代表示デバイスへの応用に向け、開発した可視光用EOポリマーを用いて光フェーズドアレイを作製し、動作実証を行う。また、立体ディスプレイなどに活用するため、緑色や青色といった赤色以外のEOポリマー開発にも取り組む予定である。
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