EV向けも登場、商業展開が加速するグラフェンバッテリー:幅広い応用範囲に期待(2/2 ページ)
グラフェンをバッテリーやその他のエネルギー貯蔵デバイス(スーパーキャパシターなど)に応用する学術的な研究開発は何年にもわたって行われてきたが、現在では、さまざまな最終用途をターゲットにした商業製品が市場に出回っている。これは、ここ数年の間に顕在化したものだ。市場の立ち上がりは遅かったかもしれないが、続々と製品が市場に投入され、この傾向は2022年前半まで続いている。
「3Dグラフェン」を用いた宇宙用リチウム硫黄バッテリー
米国カリフォルニア州のバッテリーメーカーLytenは、米国宇宙軍向けのグラフェンバッテリーを開発するため米国政府と協力していることを発表した。既に小型衛星に使用するためのプロトタイプが作成されているが、以前はEV市場もターゲットにしていたので、ここにきてさらに実を結ぶ可能性がある。
用途の新しさもさることながら、このバッテリーの面白いところは、リチウム硫黄(Li-S)バッテリーであることだ。硫黄電極は、硫黄イオンが電極から離れて反応し、長鎖分子を形成する過程で電極やバッテリーの性能を低下させる「ポリサルファイドシャトル」の問題がしばしば指摘されていた。
ポリサルファイドシャトルは、リチウムイオンバッテリーの大規模な実用化を妨げる要因となってきたが、Lytenはグラフェン層(3D形状)を用いて、電極の表面反応を抑制することに成功した。これにより、正極から放出されるのは長鎖のLi2S8やLi2S6分子ではなく、Li2S分子となり、より長く、より正常なバッテリー動作につながるのだ。これは、グラフェンバッテリーやLi-Sバッテリーが、高価値の最終用途市場でより多く採用されるようにするための興味深い発展だ。
グラフェンバッテリーの分野では、マサチューセッツ工科大学(MIT)の新興企業PolyJouleが、最新の開発を行っている。このバッテリーは、標準的な2電極方式の電気化学セルをベースに、導電性ポリマーとカーボン-グラフェンのハイブリッド材料を組み合わせいる。
このバッテリーは、10秒以内に最大1MWの電力を急速に放電し、電圧の断続を防ぐことができるため、特に断続的な再生可能エネルギー源による電力網への応用が期待されている。また、5分以内に充電することができ、必要なときに電力を確保できる。他のバッテリーと異なり、熱を持たないため、熱対策が不要という。
この技術は非常に新しいもので、現在入手できる情報は限られている。電力網だけでなく、産業用のエネルギーストレージやデータセンターの無停電電源装置(UPS)への応用も期待されている。産業用を意識して設計されていて、グラフェン系バッテリーの新たな市場開拓が期待される。この市場が軌道に乗り、電力網や他の産業分野のニーズをカバーするために、これらのバッテリーがより大規模に作られるようになるのかどうか、興味深いところである。
グラフェンバッテリーの応用範囲は広い。社会におけるエネルギー需要は、小規模なものから大規模なものまで増加し続けるため、より小型で高エネルギー、高密度の蓄電システムが必要とされるようになるだろう。
特に、多様なアプリケーションや最終用途の市場に向けたさまざまな製品が既に登場しており、政府機関と連携した開発も行われていることから、グラフェンバッテリー市場は今後も拡大するとみられる。従来のバッテリー化学物質では難しかった性能を実現できる可能性があるだろう。
【翻訳:青山麻由子、編集:EE Times Japan】
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