酸化マンガンをグラフェンで挟んだ負極材料開発:二次電池の高容量、長寿命を実現
物質・材料研究機構(NIMS)の研究グループは、二次電池の高容量化と長寿命化の両立を可能とする酸化物/グラフェン複合材料を開発した。
分子レベルでミルフィーユ構造に積層
物質・材料研究機構(NIMS)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の馬仁志准主任研究者と佐々木高義拠点長らの研究グループは2018年1月、二次電池の高容量化と長寿命化の両立を可能とする酸化物/グラフェン複合材料を開発したと発表した。酸化マンガンナノシートとグラフェンを分子レベルで複合化し、交互に積層するミルフィーユ構造にしたことで実現した。
今回作製した酸化マンガンナノシートと還元型参加グラフェン(rGO)は、いずれも負に帯電しているが、rGOに水溶性高分子電解質のPDDAを修飾して電荷を反転させた。厚みは酸化マンガンナノシートが約0.8nm、rGOが約1.5nmである。酸化マンガンナノシートとrGOは、水溶液中で単分散しているが、2つの溶液を混ぜ合わせると交互に積み重なるという。
研究グループは、交互に積層した材料を透過型電子顕微鏡で観察した。この結果、酸化マンガンナノシートとrGOが、交互に積層したミルフィーユ構造を形成していることが分かった。
合成した複合材料を負極活物質として、対極にリチウム箔あるいはナトリウム箔を用いた2032型コインセルをそれぞれ試作し、その充放電特性を測定した。測定結果から、両方とも可逆的な充放電が可能であることが分かった。0.1A/gの電流密度では、負荷容量がそれぞれ1325mAh/gと795mAh/gの高い値を示した。カーボンを負極とする現行のリチウムイオン電池に比べて2倍以上の負荷容量となる。
サイクル寿命についても評価した。5000サイクル充放電を行った場合、サイクル当たりの容量減少は、リチウムイオン電池で0.004%、ナトリウムイオン電池で0.0078%となった。この数値は、これまで報告されている金属酸化物系負極材料の中で、最も高い容量と長いサイクル寿命になるという。
こうした特性が得られたのは、高い導電性を持つグラフェンによって電極全体の伝導性が改善されたことや、酸化マンガンナノシートがグラフェン間に挟まれて有効に隔離されることで、酸化マンガンの可逆的な酸化還元変換プロセスが安定化したため、と判断している。これまで酸化マンガンは高容量だが、充放電を繰り返すと構造が壊れやすいという課題があった。グラフェンで挟むことによりこの課題を解決した。
研究グループは、開発した複合材料がスーパーキャパシターや電極触媒など、二次電池以外にも応用できるとみている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- NIMS、磁場のみで動作するトランジスタ開発
物質・材料研究機構(NIMS)は、磁気でイオンを輸送するという、これまでとは異なる原理で動作するトランジスタを開発した。 - リチウム空気電池に新電解液、効率も寿命も向上
物質・材料研究機構(NIMS)がリチウム空気電池の電解液を新開発し、77%のエネルギー効率と50回以上の放電サイクル寿命を達成した。 - ニオイでアルコール度数を推定、健康状態も確認
物質・材料研究機構(NIMS)の柴弘太研究員らは、酒のニオイ成分からアルコール度数を推定することに成功した。極めて感度が高い膜型表面応力センサー素子(MSS)と機能性感応材料および、機械学習を組み合わせることで実現した。 - 蓄電容量はLi電池の15倍、NIMSのリチウム空気電池
物質・材料研究機構(NIMS)は、蓄電容量が極めて高いリチウム空気電池を開発した。従来のリチウムイオン電池(Li電池)に比べて15倍に相当する高さで、EV(電気自動車)の走行距離をガソリン車並みに延ばすことも可能となる。 - NIMSら、超伝導体の移転温度を精密に制御
物質・材料研究機構(NIMS)などの研究チームは、原子層超伝導の磁性分子による精密制御に成功した。そのメカニズムも明らかとなった。 - 「火を消す」有機電解液を開発――東大など
東京大学と物質・材料研究機構(NIMS)らの研究グループは、消火機能を備えた高性能有機電解液を開発した。安全かつ高エネルギー密度を両立した新型二次電池の開発に弾みをつける。