グラフェン太陽電池、実用化に向け前進:海運業など用途も拡大(2/2 ページ)
グラフェンは、さまざまなハイテク用途向けとしての利用が推奨されてきたが、今のところ参入を果たすことができた分野は、ほんの数種類に限られている。その中の1つが、太陽電池市場だ。
商用開発も確実に進む
グラフェン太陽電池の商用開発は、大いに期待を集めているが、今のところまだ学術研究所の範囲にとどまり、試験に向けた準備もあまり整っていないという状況にある。しかしここ数年間で、注目すべき商用開発がいくつか進み、実世界で使われているものも登場している。
まず注目すべき商用開発としては、長年にわたり実績を培ってきた中国メーカーZNShineが2018年、インド最大手の発電装置メーカーBharat Heavy Electricals Limitedとの直接協業により、インド国内の大規模な太陽光発電所(ソーラーファーム)における堆積粉じんの問題に取り組んだことが挙げられる。
ZNShineの太陽電池の場合、太陽に面したパネルの上にグラフェンをコーティングして、光性能を向上させ、表面の自浄作用を高めることにより、粉じん環境でも定期保守や大規模補修を不要にすることができた。ZNShineはその後も、さまざまな種類の太陽電池デバイスを市場に提供しており、そのほとんどがグラフェンをコーティングに使用することによって、太陽電池技術の電力変換効率の向上を実現している。
過去数年間で2番目に重要な開発事例としては、Freevoltが住宅用途向けに開発したグラフェン太陽電池が挙げられる。また、S2A Modularは、自社のZEH(ネットゼロエネルギーハウス)向けとして太陽電池を採用している。
これらの太陽電池は、電池上部の透明電極としてグラフェンを使用しているため、グラフェンの持つ優れた伝導特性だけでなく構造特性もうまく利用して、高効率化を実現することができる。グラフェンは表面の近くで使われているため、太陽電池の表面の劣化を最小限に抑え、熱などのさまざまな外部環境要因を低減して電池への影響を減らし、電池の使用期間を延ばすことが可能だ。
海運業界でのCO2排出量を減らす
英国Grafmarineが2022年に開発したグラフェン太陽電池は、海洋分野をターゲットに定めている。同社の新しいグラフェン太陽パネル「NanoDeck」は、船舶に電力を供給し、住宅環境よりも厳しい状況下に置かれる海洋環境での使用に適した設計を実現している。
太陽電池を使用することにより、世界の海運業界が発生させている大量の二酸化炭素排出量の問題に取り組んでいくという狙いがある。Grafmarineが、NanoDeckをモジュラーとして開発したのは、どのような種類の船舶にもフィットできるようにするためだ。
現在のところ、まだ試作品しか提供されていないが、最近の発表によると、間もなく次の段階の試験をウェールズの海岸で開始する予定だという。グラフェンで強化されたNanoDeckの商業的可能性および変換効率について実証実験を行い、モジュラーシステムがどの程度うまく相互に機能するかを検証する。行われている試験は、Marine Energy Engineering Centre of Excellenceとの協業により、太陽パネルの技術的準備レベルの向上を目指していくという。
Grafmarineのソリューションは、現在まだ試作段階にあるが、長距離輸送船から発生する二酸化炭素の排出量を削減していく上で、大きな可能性を秘めている。もし実証実験が成功した場合、このモジュラーシステムは、風力タービンや積荷ドック、ホテルへの電力供給などでも使用できるのではないかという見解もある。
グラフェン太陽電池の実用化は、既に比較的短時間で適度に進展している。グラフェン製品や共同プロジェクトへの投資や協業が増えるに伴い、数年の間に、唯一限られた製品だけが市場に出回るのではなく、さらに多くの市場が開放されるようになるだろう。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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