NTTら、小型PLC内で光の強度差を自在に補償:光伝送距離を約200km拡張可能に
NTTと北海道大学は、新たに開発した小型の光導波路デバイスを用い、異なるモードの信号光間で生じる光の強度差を、自在に補償することができることを実証した。このデバイスを用いると、伝送可能な距離を約200km拡張できるという。
モード間の光強度差を±0.5dB以下に補償
NTTと北海道大学は2022年6月、新たに開発した小型の光導波路デバイスを用い、異なるモードの信号光間で生じる光の強度差を、自在に補償することができることを実証したと発表した。このデバイスを用いると、伝送可能な距離を約200km拡張できるという。
異なる複数のモードを1本の光ファイバーで伝搬するモード多重伝送方式は、大容量光伝送を実現するための技術として注目されている。ところが、光ファイバー中の減衰量や光増幅器の増幅効率は、各モードによってわずかに異なる。このため、長距離伝送後にはモード間の光強度差が広がり、伝送可能な距離を著しく制限するなど、課題もあったという。
そこで研究グループは、小型の平面光波回路(PLC)技術を活用し、「2モード中の特定モードに対する減衰量の可変制御」と、「多モード光増幅器で発生する増幅効率差の広帯域補償」を行うことにした。これにより、モード間の光強度差を±0.5dB以下に補償することができた。
開発したPLCは、2台の光分岐結合回路が従属に接続された構造である。光強度が異なる2種類の信号光を入力すると、光強度が高い信号光の50%は、1段目の光分岐回路で主導波路から遅延線導波路に結合する。
この時、光分岐回路の「結合長」と「導波路間隔」を最適化すれば、希望する信号光を選択できるという。遅延線導波路に結合した信号光は2段目の光結合回路で主導波路に再結合する。その結合量は遅延線導波路で受けた遅延時間(位相)に応じて変化する。
実験では、遅延線導波路の屈折率をヒーターで変えて、特定の信号光の結合量(減衰量)を制御した。具体的には、50〜;170mWのヒーター電力で、減衰量を最大2.3dBまで可変できることが分かった。光伝送路中における減衰量の偏差は、おおむね1km当たり0.01dB以下と想定できるため、200km超に相当する光強度差を補償することが可能となった。一方で、入力時の光強度が低い信号光は主導波路を通り抜けるため、過剰な損失は発生しないという。
研究グループは、1530〜1565nmの波長帯域で2モードの光増幅を行う光増幅器を用い、作製したデバイスによる増幅効率差の変化を評価した。この結果により、増幅効率の波長依存性を劣化させず、いずれの動作条件であっても増幅効率差を±0.5dB以下に抑えることができることを明らかにした。作製したデバイスを用いない時は、増幅波長帯域の全域で1.5dB以上の増幅効率差が生じた。この増幅効率差は、光増幅器の動作条件に応じて最大3dBまで増大することも分かった。
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