NTTら、光ファイバー結合型量子光源を開発:光量子コンピュータをラック形状に
NTT(日本電信電話)は、東京大学や理化学研究所と共同で、光ファイバー結合型量子光源(スクィーズド光源)を開発した。大規模光量子コンピュータをラックサイズに小型化するための基幹技術だという。
6THz以上の帯域で、量子ノイズを75%以上圧搾
NTT(日本電信電話)は2021年12月、東京大学や理化学研究所と共同で、光ファイバー結合型量子光源(スクィーズド光源)を開発したと発表した。大規模光量子コンピュータをラックサイズに小型化するための基幹技術だという。
量子コンピュータは、超並列計算によって高速処理を実現する。このため、次世代コンピュータとして世界中の研究機関や企業が開発を進めており、さまざまな方式が考案されている。その1つが、光子を用いて計算する光量子コンピュータである。「時間領域多重化技術」や「測定誘起型量子操作」という、これまでとは全く異なる手法を用いる。
光量子コンピュータは、超伝導回路などを用いる従来手法に比べ、「冷凍/真空装置は不要で小型化が可能」「集積化や装置の並列化なしに量子ビット数をほぼ無限に増すことができる」「光の広帯域性を生かして高速な計算処理が可能」「多数の光子で量子ビットを表す手法により、光子数の偶奇性を用いた量子誤り訂正ができる」といった特長がある。光通信技術とも親和性が高く、低損失の光ファイバーや高機能の光デバイスを用いることも可能である。ただ、量子性の源となる「スクィーズド光」の生成が難しかったという。特に、量子ノイズ圧搾率が65%を超えるスクィーズド光源は、これまで実現はされていなかった。
今回、汎用量子計算に必要となる2次元クラスター状態を大規模に生成するため、4個のスクィーズド光源、長さが異なる2本の光ファイバー(光学遅延線)、そして5個のビームスプリッターを用いた。原理的にはどのような規模の計算でも行うことができるという。しかも、光の高い周波数を生かして、高速な計算が可能である。
新たに開発した光ファイバー接続型量子光源モジュール(光パラメトリック増幅モジュール)は、周期分極反転ニオブ酸リチウム導波路の作製方法を一新するとともに、これまで培ってきた実装技術を用い、モジュールの低損失化を実現した。
実験では、開発したモジュールと光通信用ファイバー部品を組み合わせた光ファイバー系を用い、6THz以上の広帯域で、量子ノイズが75%以上圧搾されたスクィーズド光の生成に成功した。
なお、今回は1つ目のモジュールでスクィーズド光を生成し、2つ目のモジュールで光量子情報を古典的な光の情報に変換する手法を用いた。量子信号を光のまま古典的な光の信号に増幅変換できるため、極めて速い測定を可能にした。将来の全光型量子コンピュータにも適用可能な技術だという。
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