潮目が変わりつつある世界半導体市場 ―― アプリケーションからの分析:大山聡の業界スコープ(55)(2/2 ページ)
前回、「潮目が変わりつつある世界半導体市場」について述べたところ、多くの方々から反響をいただいた。筆者の主張に注目していただけたことは非常に光栄なことである。ただ逆に、これだけ注目されたということは、多くの方々が今後の市況の見通しを心配されていることの証左ではないか、という気もしてくる。実際に市場ではどのような動きがみられるのか。今回はもう少しアプリケーション寄りの情報を整理してみたい。
予断が許されない今後の見通し
アプリケーション別にいえば、PCおよびスマホ市場は下振れ始めたが、「自動車および産業機器は変化なし」と言えそうである。前回も述べたが、メモリはDRAMもNANDも不足状態にはなっておらず、直近ではやや過剰感が出てきている。中国のロックダウンが解除されたので、PCやスマホの生産も通常状態に戻りつつあるが、肝心の需要が下振れてしまうと、今度は在庫の心配をせねばならない。では2023年に需要回復が期待できるのか。筆者としては、PC市場もスマホ市場もあまり期待できないと考えている。PC市場ではほとんどのユーザーが現状のスペックを問題視しておらず、新たな需要が期待できないだろう。スマホ市場も本格的5Gサービスが立ち上がるまでは現状のような停滞感が続く可能性が高い、と思われる。事実、大手スマホメーカーの中には、これから在庫調整に入ることを半導体/部品メーカーに公言している企業もあるという。それを聞いて、やはり今まで在庫を抱え込んでいたのか、これが半導体不足の一因になったのか、などと思った次第である。
メモリのもう1つの重要アプリケーションにデータセンターがある。その中心である米州メモリ市場は2022年5月実績が前年比28.9%増。決して悪くない数値に見えるが、この市場は同60%増前後の成長から徐々に下落しているのが現状で、今後の見通しについても予断を許さない。
自動車および産業機器市場においては、MCU、アナログIC、パワーディスクリートの比重が相対的に高く、メモリに過剰感が出てもあまり恩恵を受けない。MCUおよびアナログICに関しては徐々に不足感が改善されつつあるように見えるが、パワーディスクリートの不足感は改善されているようにみえない。特に注目度の高いIGBTおよびMOSFETは、2020年後半から現在に至るまで、出荷数量が実質的に頭打ちになって伸びていないのである。クルマの電動化に欠かせないこのデバイスの需要は、間違いなく増えているはずである。2021年から稼働を開始しているはずのInfineon Technologiesのパワーデバイス専用300mmラインは、現状どうなっているのか、気になるところである。
IGBTおよびMOSFETなどの製品は、手掛けているメーカーが限られており、新規参入企業もいない。中国で「これから立ち上げよう」という動きはあるものの、必要な人材を集められずに苦労しているようだ。
半導体市況の潮目は確かに変わりつつある
前回述べたように、半導体市況の潮目は確かに変わりつつある。メモリ市場はマイナスに落ち込む可能性が高く、スマホやサーバが伸びなければ、先端ロジックICの需要にも悪影響が出るだろう。それでもなお、IGBTやMOSFETのように、伸びる需要に供給が対応できなければ、これらのデバイス不足は引き続き継続する可能性が高い。また、ファウンドリーとキャンセル不可の長期契約を結んだデバイスメーカーや機器メーカーが今後どのような調整方法を採るのか。市況をかき乱す要因はいくつかありそうだ。機器市場からの実際の需要、それに至るサプライチェーンの動向を含めて、状況を注意深く観察していきたい。
筆者プロフィール
大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表
慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。
1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。
2010年にアイサプライ(現Omdia)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。
2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。
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