カーボンナノチューブによる高熱伝導材料を実現、Carbice:低熱抵抗&安定した熱抵抗を両立(2/3 ページ)
本記事では、米Carbiceがカーボンナノチューブを用いて開発した手法について詳しく見ていきたい。同社は、液体および固体の両方の「サーマルインタフェースマテリアル(TIM:Thermal Interface Material)」(熱界面材料)の特性を1つのソリューションの中で組み合わせた効果的な冷却システムを、どのようにして実現したのだろうか。
「あらゆる過酷な環境」に適する性能
配向性が高く熱伝導性を備えた数十億個規模のCarbice Nanotubeを、ナノスケールで成長させた材料は、熱い面から冷たい面へと熱を動かすための経路を形成している。図2のように、このナノチューブは、柔軟性にも優れ、曲がったり戻ったりして熱界面の空隙を埋めることが可能なため、循環中の界面における熱的/機械的な動的変化にも対応することができる。このためCarbiceは、妥協のないデバイス性能を実現し、デバイスの寿命を延ばすことが可能だ。
Cola氏は、「われわれは、2017年に活動を開始し、宇宙産業向けTIMの供給メーカーとして承認されることを目標に掲げた。あらゆる種類の信頼性テストと長期間熱サイクリングを実施し、成功を収めることができた。宇宙向けとしての認可を得られれば、実質的にあらゆる過酷な環境向けとしての認可を得られたことになるため、非常に重要な成功だといえる。当社にとって宇宙産業は、最初に事業成長を実現できた分野となった」と述べる。
同社はこれと同時に、Cola氏にとってIntelでの出発点となった、半導体試験の分野にも参入する。自動車メーカーは実際に、さまざまな種類のCarbiceの材料を使用して信頼性テストを行い、例えば、自動車が要件に準拠しているかどうか、また一般的な自動車用途として、極端な温度条件下でもうまく動作することができるかといった点を評価している。
Carbiceの粘着パッドは、さまざまなニーズ向けに調整されている。例えば、「Ice Pad」は幅広い用途向けに、「Space Pad」は宇宙用途向けに、そして「Contact Pad」は、既存のTIMでは極端に摩耗してしまうような界面に対応することができるという。Ice Padは、ハイエンドコンピューティングプロセッサや、電気自動車の電源モジュール、家電製品など、ほとんどの用途向けに最適な冷却性能を提供する。Space Padは、NASAが開発した技術成熟度レベル(TRL:Technology Readiness Level)において最も高い評価基準とされるレベル9を獲得した、妥協のないTIMである。既に軌道上にある大型/小型衛星の冷却用途向けに採用されており、今や宇宙分野向けの標準規格になりつつある。一方Contact Padは、最も耐久性に優れているため、例えば半導体テストなどで、開閉接点やスライド接点を繰り返し作動させる必要があるというような、非常に難しいシナリオにも対応することが可能だ。
異なる材料に対する分析を行った結果、2000サイクル以降、グリスの熱抵抗はIce Padの2.6倍に、相変化材料(PCM)の熱抵抗はIce Padの1.4倍になることが実証されたという。
さらに、Carbiceの宇宙分野における主要顧客は、Space Padから以下のようなメリットを得られている。
- 地上試験および機内試験の両方で同じ材料を使用可能
- 省スペース化や軽量化、低コスト化を実現可能
- 寿命末期の性能が、使用開始時の性能を上回る
「ハイブリッド車や電気自動車の内部では、半導体が公称値の60〜70%しか動作しないことが分かっている。これは、PCMやグリスなどの従来のTIMが、年月とともに摩耗し劣化していくためだ。Carbiceの粘着パッドは、デバイスのディレーティングを引き起こすことなく、サイクルに対して信頼性の高い性能を提供し、時間とともに改善することも可能だ。つまり、冷却システムをよりコンパクトにしたり、コストや重量を削減するために異なる設計にしたり、あるいは、より少ない半導体でより多くの効果を得ることができるようになるのだ」(Cola氏)
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