Crハライド系物質でスピン流の整流効果を発見:スピン流の強度は約2桁も大きく
東京工業大学と千葉大学は、磁性絶縁体のCrハライド系物質にギガヘルツからテラヘルツ帯の電磁波を印加すると、スピン流の整流効果が生じることを理論的に解明した。しかも、スピン流の強度はこれまでの予測値に比べ、約2桁大きくなることも分かった。
ギガヘルツからテラヘルツ帯の電磁波を印加して、大きなスピン流を実現
東京工業大学理学院物理学系の石塚大晃准教授と千葉大学大学院理学研究院の佐藤正寛教授は2022年9月、磁性絶縁体のCrハライド系物質にギガヘルツからテラヘルツ帯の電磁波を印加すると、スピン流の整流効果が生じることを理論的に解明したと発表した。しかも、スピン流の強度はこれまでの予測値に比べ、約2桁大きくなることも分かった。
研究チームはこれまで、バルクの磁性絶縁体におけるスピン流の整流効果について、その原理を提案してきた。しかし、強度のスピン流を実現できる候補物質を見いだすまでには至っていなかったという。
光を当てると光起電効果によって電流が生じる物質の代表格が、シリコン半導体を用いた太陽電池である。ところが、シリコン半導体で光起電効果を得るためには、p型半導体とn型半導体を接合したpn接合が必要となる。これに対し、Crハライド系物質のように空間反転対称性の破れた磁性絶縁体では、「バルク光起電効果」と呼ばれる現象によって、pn接合を作らなくても光起電効果が得られるという。
研究チームは今回、2層Crハライド系物質に着目をした。原子が2次元に並んだ物質で、この理論模型にさまざまな周波数の電磁波を印加して、スピン流の発生有無やその条件を理論的に解析した。特に、2層Crハライド系物質が反強磁性の状態では、磁気モーメントが特殊な配列となり、空間反転対称性が破れ、スピン流の光整流が可能になることが分かった。また、Crハライド系物質では、磁気モーメントを持つ「マグノン」という粒子が現れた。
さらに、電磁波を印加した時、模型がどのように振る舞うかを調べるため、「線形応答理論」を拡張して、光による直流スピン流の整流現象について検討した。ギガヘルツからテラヘルツ帯の周波数を印加したところ、マグノンが特定の方向に流れ、直流スピン流の整流効果が生じることを発見した。
しかも、整流効果によって生じるスピン流の強度は、従来の研究成果に比べ、約2桁も大きくなることが分かった。この光誘起スピン流は、拡散的なスピン流とは定性的に異なる振る舞いを示した。また、直線偏光で生じる現象のため、円偏光のように電磁波の偏光を調整する必要がない。この整流現象は「太陽電池のスピン流版」といえるもので、太陽電池とも共通しているという。
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