東京大学ら、熱伝導率が極めて高いCNF糸を開発:熱伝導率は紙の100倍以上
東京大学らによる研究グループは、熱伝導率が極めて高いCNF(セルロースナノファイバー)糸を開発した。試作したCNF糸の熱伝導性は、紙などの木質バイオマスに比べ100倍以上になり、放熱性能が求められるフレキシブルプリント基板などへの応用が期待されている。
フレキシブルプリント基板などへの応用に期待
東京大学らによる研究グループは2022年10月、熱伝導率が極めて高いCNF(セルロースナノファイバー)糸を開発したと発表した。試作したCNF糸の熱伝導性は、紙などの木質バイオマスに比べ100倍以上になり、放熱性能が求められるフレキシブルプリント基板などへの応用が期待されている。
CNFは木質バイオマスから得られるバイオ系ナノ材料で、鋼鉄より軽くて強く、耐久性にも優れ、環境に優しいプロセスで製造することが可能といった特長がある。しかも、安全性や生分解性が高く、「脱プラスチック」を実現するための代替材料としても注目されている。ただ、従来の木質バイオマスは熱伝導率が低く、断熱材などに用いられてきたという。
研究グループは今回、CNFの水分散液をフローフォーカシング流路に注入し、CNFを分子スケールで配向させた。これに酸を別途注入して固め、自然乾燥させることでCNF糸を作製した。
試作したCNF糸の熱伝導率を、T型熱伝導率計測法によって調べた。この結果、特定の酸を用いたCNF糸では、熱伝導率が14.5W/m・Kとなった。しかも、CNF糸が細いほど高い熱伝導率が得られることも分かった。ラマン分光法や赤外線分光法を用いてCNF糸の化学構造などを調べた。その結果、CNFの配向度が一定レベルに達していれば、CNF間をつなぐ水素結合が多く、残留応力によって生じるCNF内の構造不秩序性が小さいほど、熱伝導率は高くなることが判明した。
今回の研究では、プロセスの最適化までは行っておらず、プロセスパラメーターを最適化すれば、さらなる性能向上が期待できるとみている。
今回の研究成果は、東京大学大学院工学系研究科の塩見淳一郎教授、東京都立産業技術高等専門学校の工藤正樹准教授、東京大学大学院農学生命科学研究科の齋藤継之教授、スウェーデン王立工科大学のLundell Fredrik教授および、Soderberg Daniel教授らの研究グループによるものである。
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