光に対し安定性と分解性を両立した新材料を開発:光分解性材料が長期間使用可能に
東京大学は、光に対する長期安定性を維持しつつ、光と酸を同時に作用させたときだけ分解する「高分子材料」を開発したと発表した。
特殊な条件下で光分解を可能にする「協働分解技術」を開発
東京大学大学院総合文化研究科の寺尾潤教授と正井宏助教、ラッセル豪マーティン大学院生らによる研究グループは2022年8月、光に対する長期安定性を維持しつつ、光と酸を同時に作用させたときだけ分解する「高分子材料」を開発したと発表した。
環境調和型の材料として、人工的な光や自然光を照射することで材料を分解できる「光分解性材料」が注目されている。微細な回路を形成するために用いられる「フォトレジスト」などもその1つである。一方で、光が当たると材料が分解されるため、光の下では材料を長時間利用することができない、という課題があった。
研究グループは、光に対する「安定性」と「分解性」を両立させる材料の開発に取り組んだ。つまり、「材料を使用している間は、光に対して安定した性質を保つが、使用期間が終わると、特殊な条件下で光分解が可能」という新たな材料である。
これを実現する方法として今回、光と酸を同時に作用させた場合にのみ材料を分解させる「協働分解技術」を開発した。実験では、高分子材料の「ポリメタクリル酸メチル」に対し、架橋剤として少量の白金錯体を導入したゲル材料を作製した。
白金錯体は、メチル化シクロデキストリンを環状分子とする超分子構造を有している。この白金錯体を含むゲル材料は、光照射だけでは高い安定性を示す。ところが、365nmの紫外光と塩化水素を同時に作用させると、白金−炭素結合の分解反応が進行するという。
さらに研究グループは、材料の発光を光で制御することにも成功した。分解によって発光色が黄色から青色へと変化する材料に対し、光と酸を用いて文字列をプリントした。このゲル材料は、白色光の下では透明であった。これに365nmの紫外光を照射すると、文字列を発光色の違いとして浮き出させることができたという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 全頂点にフッ素原子が結合した立方体型分子を合成
東京大学とAGCの研究グループは、広島大学および京都大学との共同研究により、全ての頂点にフッ素原子が結合した立方体型分子「全フッ素化キュバン」の合成に成功し、その内部空間に電子が閉じこめられた状態を初めて観測した。 - 「反強磁性体」で垂直2値状態の電流制御に成功
東京大学は理化学研究所などと共同で、反強磁性体における垂直2値状態を電流制御することに成功した。磁気抵抗メモリ(MRAM)のさらなる高速化や低消費電力化を可能にする技術だという。 - 安価な製造法で高品質なAlGaNーHEMTの試作に成功
東京大学生産技術研究所教授の藤岡洋氏らは2022年7月、AlGaN(窒化アルミニウムガリウム)トランジスタを安価に製造できる手法を確立するとともに、同トランジスタを試作し実用性があること確認したと発表した。 - 量子計算機の量子多体計算エラーを効率的に除去
東京大学やNTTコンピュータ&データサイエンス研究所、産業技術総合研究所および、大阪大学による共同研究グループは、量子コンピュータによる量子多体計算のエラーを、効率的に除去する手法を開発した。この手法は、演算精度が比較的低い量子ビットを多数備えている量子コンピュータで、その威力を発揮するという。 - FeFETによる機械学習、音声認識の精度は95.9%
東京大学は、強誘電体トランジスタ(FeFET)を用いた「リザバーコンピューティング」と呼ばれる機械学習方式を開発し、高い精度で音声認識を行うことに成功した。採用したFeEFTは現行の製造プロセスと親和性が高く、LSIの大規模化も比較的容易とみている。 - ALD法で酸化物半導体を三次元構造へ均一に成膜
東京大学と奈良先端科学技術大学院大学の共同研究グループは、酸化インジウムの成膜に原子層堆積(ALD)法を用いる技術を開発、この技術を活用して三次元垂直チャネル型の強誘電体/反強誘電体トランジスタメモリを開発した。