全頂点にフッ素原子が結合した立方体型分子を合成:PERFECT法を用い、初めて実現
東京大学とAGCの研究グループは、広島大学および京都大学との共同研究により、全ての頂点にフッ素原子が結合した立方体型分子「全フッ素化キュバン」の合成に成功し、その内部空間に電子が閉じこめられた状態を初めて観測した。
立方体の内部空間に、電子を閉じこめた状態を初めて観測
東京大学とAGCの研究グループは2022年8月、広島大学および京都大学との共同研究により、全ての頂点にフッ素原子が結合した立方体型分子「全フッ素化キュバン」の合成に成功し、その内部空間に電子が閉じこめられた状態を初めて観測したと発表した。
全フッ素化キュバンは、電子が占有しない空の分子軌道が多面体内部に集まり、電子を受けとりやすい「LUMO(最低空軌道)」を形成する。このため、その内部空間に電子を閉じ込められることは、量子化学計算により予想されていたという。ところが実際は、8つ全ての炭素にフッ素原子が結合した多面体型分子を合成するのは、極めて難しかったという。
こうした中でAGCは、フッ素ガスの反応性を制御しつつ、有機化合物にフッ素原子を導入する技術「PERFECT法」を既に開発していた。今回は、PPERFECT法を用いて、7つのフッ素原子を同時にキュバンに結合させることに成功した。残り1つのフッ素原子についても化学反応によって導入することに成功した。研究グループは単結晶X線構造解析を行い、キュバンの全ての頂点にフッ素が導入されていることを確認した。
また、電気化学測定や吸光測定によって、全フッ素化キュバンが電子を受け取りやすい分子軌道を持つことを証明した。さらに、ガンマ線を照射して全フッ素化キュバンに電子を与えた。そして、どのような化学種が生成しているのかを、低温固相マトリックス単離ESR法を用いて観測した。この結果、全フッ素化キュバンに与えられた電子は、主に立方体の内部空間に分布していることが分かった。
今後は、全フッ素化キュバンに閉じ込められた電子の挙動や反応性について、さらなる調査を行う予定である。
今回の研究成果は、東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻の杉山真史大学院生、秋山みどり特任助教(研究当時)、野崎京子教授、AGCの岡添隆上席特別研究員らによる研究グループと、広島大学大学院先進理工系科学研究科の駒口健治准教授および京都大学大学院工学研究科の東雅大准教授らによるものである。
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