「令和版所得倍増計画」の正体 〜全国民参加の不労所得獲得戦略:「お金に愛されないエンジニア」のための新行動論(9)(5/9 ページ)
今回は、「令和版所得倍増計画」について、もう一歩踏み込んで分析してみました。その結果、この計画は、「日本の国民全員参加による、不労所得の獲得戦略」であることが見えてきました。うん、ならば意外に悪くはない、一口乗ってみるかという気にもなってきます。
III.お金の落とし先(投資先)
この「人への投資」は、344行と、非常に気合の入った内容となっています(科学技術の項目の10〜20倍の文章量)。
ただ、読んでみると分かりますけど、「全世代を応援する」といいつつ、全ての人に投資をする、というわけではないようです。自分で勉強しなおす気力のある人、強い就学の意思のある人、デジタル人材になろうとしている人、イノベーションに関わる研究者などであって、その技能や・技術・能力が、定量的に評価できる人材だけ ―― という制限が読み取れます。
最大級のショックは、令和版所得倍増計画が、個人で行う投資(by NISA, iDeCo) + 自分で探す副業である、と分かったことでした。昭和の所得倍増計画では、給与が2倍になる、という仕組みでしたが、令和の所得倍増計画とは、「自力で所得を倍増にしなさい」ということでした(「「新しい資本主義」をエンジニア視点で考えてみる」)
多分、私と同じような勘違いをしている人は、多くいると思いますので、注意喚起をしておきたいと思います。なお、それ以外の内容については、おおむね、以前の「働き方改革」の内容と同じでした。
科学技術とイノベーションにお金を落すのは、まあ当然ですね。
ただ、一口に、量子コンピュータといっても、そのデバイス(超伝導、イオントラップ、半導体量子ドット、ダイヤモンドNV, 光学量子計算、トポロジカル、その他)一つを取っても、どれが主流になるかは大きな賭けです(「1量子ビットを制御してみよう」)。デバイス系の開発は、メジャーを外すと、投資がパーになるという恐怖が常にあります。
AI技術についても、ざっくりと右の図だけの種類があり、それぞれ長所と短所があり、どのようなフィールドに、どのような方法で適用し、どういう投資配分をしていくかは、難問です。
ただ、今後のAI技術については、新技術の研究開発よりは、その運用(活用)方法の積み重ねが大切になってくると思います。このような運用や活用に関する実績作りは、とても大切なのですが、論文や賞の対象になりにくいことから、評価されにくく、それ故に十分な投資がされないことを、私は、よく知っています。
(バイオと再生医療は、私には分からんのでパスします)
ともあれ、この資料では、これらの「各種分野」についての内容が具体的はありません。これは、仕方がないことなのかもしれませんが、私の長年の経験から、「金さえ出しておけば、何か技術が生まれてくるだろう」という、官僚の方にありがちな、思考放棄を感じました(まあ、実際に、私もバイオと再生技術は、全然分からん、という点では同じなのですが)。
「科学技術、イノベーションへの投資」で、官民協力で成功したケースは、私が知る限り、国内スパコン開発発展のため、日本国内での米国IBMのスパコン購入を徹底的に妨害した、当時の通産省と国内の有力メーカーとのタッグくらいしか知りません(1960年代) ―― 同じことを、再び「量子コンピュータ」でもやるかもしれない、というのが、今のところ、私が想像する「官民協力」のイメージの限界です。
大学改革については、これまでの政府の施策と特に変わったところはありませんが、量子コンピュータやAI技術と同じレベルで、「大阪万博」が登場することに、ものすご違和感があったことを記しておきます(多分、どこかから圧力がかかったのでしょう)。
起業支援については、技術の内容の倍くらい記載されていましたが、正直「用語の意味を理解して書いているのかな?」と思われるような箇所もありました(例えば、「オープンイノベーション」など)。
私、退職後は、フリーランスで「”もの書き”兼”プログラマー”」をやりたいと思っているのですが、具体的にどのような施策が走るのか、この資料からは読み取れませんでした(まあ、この資料は募集要項ではないので当然ですが)。
GX(グリーン・トランスフォーメーション)やDX(デジタル・トランスフォーメーション)については、ありったけのキーワードが羅列されているようですが、政府として「どこに注力していくか」が、読み取れませんでした。
私、会社の幹部から『選択と集中』を繰り返される度に、ちょっとムカついていたのですが、今、やっと、会社幹部の皆さんの言っていることが、理解できました。
IV.「仕組み(システム)」の作り方
「やりたい!」と手を上げる人がいれば、”官”の仕事を、じゃんじゃん”民”に明け渡すぞ、という内容だと思いますが 『そんなにうまくいくかなー』という気もしています。”民”でもセクショナリズムはありますが、”官”のセクショナリズムって、シャレにならないくらいエゲツないと聞いています。
自分の縄張りを犯されて、しかも、その相手が民間人だとしたら ―― 簡単に手放してくれない、と思うのですよね。万一、うまく回ってしまったら、『自分と組織の無能が証明されること』にもなりますし。
一方、”民”は、「儲からん」と判断すれば、とっととその事業から撤収してしまいます。”民”は、そのフットワークが売りですが、「孤独・孤立」「高齢介護」「少子化対策」などの重大かつ深刻な社会課題に対して、簡単に逃げられてしまっては、大問題です。
当面は、SIBなどの「インパクト投資」などを使って、ゆっくりとやっていくしかないのだろうなー、とか思っています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.