東京大とST、超高感度フォトトランジスタを開発:シリコン光導波路をゲート電極に
東京大学は、シリコン光回路中で動作する「超高感度フォトトランジスタ」を、STマイクロエレクトロニクスと共同で開発した。この素子を搭載するとシリコン光回路中の光信号をモニターすることができ、深層学習や量子計算に用いるシリコン光回路を、高速に制御することが可能となる。
深層学習や量子計算に用いるシリコン光回路を高速に制御
東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻の竹中充教授と落合貴也学部生、トープラサートポン・カシディット講師および、高木信一教授らによる研究グループは2022年12月、シリコン光回路中で動作する「超高感度フォトトランジスタ」を、STマイクロエレクトロニクスと共同で開発したと発表した。この素子を用いるとシリコン光回路中の光信号をモニターすることができ、深層学習や量子計算に用いるシリコン光回路を、高速に制御することが可能となる。
研究グループは今回、シリコン光導波路上にインジウムガリウムヒ素(InGaAs)薄膜を貼り合わせた素子構造を新たに提案した。それは、「InGaAs薄膜をトランジスタのチャネルとし、シリコン光導波路自体をゲート電極にした」導波路型フォトトランジスタである。
このような素子構造にしたことで、InGaAs薄膜直下からゲート電圧(Vg)を印加し、InGaAs薄膜を流れるドレイン電流(Id)を効率よく制御することができるという。ゲート電極にシリコン光導波路を用いることで光の吸収を抑え、光損失を小さくすることが可能となった。
フォトトランジスタは、光照射がなければソース・ドレイン端子間で電流が流れにくい「オフ状態」である。シリコン光導波路から光信号を入射させると、InGaAs薄膜で光信号の一部が吸収され、InGaAs薄膜中には電子・正孔対が多数生成されるという。
ここで生じた電子はトランジスタ電流として流れる。これに対し正孔は、InGaAs薄膜中に蓄積され、フォトゲーティング効果によってトランジスタの閾値電圧が低くなり「オン状態」となる。このフォトゲーティング効果により光信号は増幅され、微弱な光信号の検出が可能となる。
研究グループは、試作した導波路フォトトランジスタの特性を評価した。実験では、光ファイバーからグレーティングカプラを通じて、波長1.3μmの光信号をシリコン光導波路に結合して、フォトトランジスタに入射した。この結果、ゲート電圧が高くなるとトランジスタが「オン状態」となり、利得が大きくなって多くの光電流が得られる。631fWという極めて小さい光信号でも、多くの光電流が得られたという。
フォトトランジスタの感度や動作速度も測定した。入射強度が小さいと増幅作用が大きくなり、106A/W以上と極めて大きな感度を得ることができた。動作速度は、光照射時に約1マイクロ秒、光照射オフ時には1〜100マイクロ秒程度でスイッチングできることを確認した。これまでに報告された表面入射型や導波路型フォトトランジスタに比べても優れた特性を実現している。
素子長に対するフォトトランジスタの光損失も評価した。単位長さ当たりの光損失は約0.2dBで、素子長が0.5μm以下であれば、挿入損失を0.1dB以下に抑えられることが分かった。
研究グループは今後、開発した導波路型フォトトランジスタを大規模シリコン光回路に集積し、これを深層学習アクセラレータや量子計算機に搭載して実証を行う計画である。
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